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ルナリス自身は一瞬だった事もあり、採風小窓から見えた違和感を幻覚かも…と片付けたが、そうではなかった。
集まった情報から、ルナリスが監禁された場所を特定したセリオール率いる騎士団が、配置についている丁度その時だったのだ。
「周辺をうろついていた者どもの確保は?」
「完了しています。
安全確保の為の封鎖、包囲網も順調に進んでいます」
古びた倉庫を見つめるセリオールの隣で、キドニーが騎士に確認している。そこへ別の騎士が駆け込んできた。
「失礼します!」
慌てた声にセリオールは振り向き、キドニーは口のへの字に曲げる。
「おい、殿下の御前だぞ」
「も、申し訳ございません!」
駆けこんできた騎士を咎めるキドニーを、セリオールが止めた。
「現場で御前も何もないだろう。
構わない、何か報告があったんだろう?」
「はい、倉庫の奥、目立たない所に馬車が…深紅の馬車がございます」
セリオールとキドニーは顔を見合わせた。
「深紅の…となるとソアラ嬢か…」
「それは…少々……いや、かなり面倒臭い事になりますね」
キドニーの呟きに、セリオールは同意しかない。
思い返しても、ソアラの言動行動の全ては疲労しか齎さなかった。
話を聞いているようで、全く聞いていない……自分に都合よく曲解するので噛み合わない。更に少しでも気に入らない事があると、直ぐに癇癪を起すのだ。
それは王太子であるセリオールに対しても同様で、何度も辟易させられた記憶が蘇る。
正直、誰もがソアラを持て余す中、まだソアラ付きの使用人として存在していたルナリスだけが、何とかソアラを宥めようとし、セリオールを逃がしてくれたりしていた。
そんな健気なルナリスに惹かれていったのは、ある意味当然だっただろうと、セリオールは思っている。あの頃を思い出し、つい緊張感のない、蕩けた笑みを浮かべた。
キドニーも騎士も、ここ最近のセリオールのそういう顔には慣れてしまったので、一々指摘せずさっくりとスルーを決め込む。
「すぐ行動に移したから、公爵邸の方の手配も同時になり、色々と後手になってしまったのは仕方ないが……馬車には誰も居なかったんだな?」
「はい、2台とも無人でした」
問いかけたキドニーは当然として、記憶の中のルナリスに、顔をだらしなく緩めていたセリオールもハッと我に返ったようだ。
「「2台…」って、まさか公爵夫妻も来ているのか?」
深紅の馬車と言うとソアラの代名詞のようになっているが、今回に限っては使用者は公爵夫妻で、ソアラは別の馬車を使う羽目になっている。
そのせいで彼女は後から目立たない…いや、至って普通の馬車なだけだが、それに乗って来ていたようだ。
尤も、少々事実誤認がある。
ソアラの後に公爵夫妻が普通の馬車で乗り付けたのではなく、公爵夫妻が先に到着していた訳だが 公爵夫妻もソアラも揃っていると言う現実に変わりはない。
色々と認識に齟齬はあるが、現状を正しく認識できたので結果オーライだ。
セリオールとキドニー、そして報告に駆け込んできた騎士も揃って少し遠景の倉庫を見つめる。
「あの古びた倉庫に…」
最初に呟いてしまったのは報告に来た騎士。
「あぁ…そう言う事だな。
ルナリス様と公爵一家3人に破落戸ども……」
げんなりと続けたのはキドニー。
最後にムッと口元を歪めたセリオールが締めくくった。
「何と言うか…諸々の重さで破壊してしまいそうだが……まぁ踏み込んで潰れても賠償金は発生しないだろう。
所有者は既に亡くなっている訳だし……兎に角ルナリスに怪我を負わせない様にだけ気を付けてくれ」
キドニーと騎士は、揃って『御意』と一礼した。




