33
一方、普段と変わらずゆっくりと目覚めたソアラは癇癪を起していた。
「もう!!
どうしてわたくしを置いて行くのよ!!??」
「お、お嬢様…きゃ!」
宥めようとしたメイドに向けて、ソアラはベッド脇に置いてあった水差しを投げつける。
幸いにして、メイドに届く前に放物線を描いて床に落ち、けたたましい音を立てて砕け散った。
「さっさと支度して頂戴!
わたくしのモノを奪おうとする泥棒猫の最期を見届けなきゃ気が済まないのよ!!」
「ですが、せめてお食事を…」
まだ年若いメイドの言葉など聞く気もないソアラは、手当たり次第に物を投げつける。
「煩い!!
わたくしに意見するなんて、クビにしてやるわよ!!」
燭台やグラス…よくもまぁ壊れ物ばかりを選んでいるのではないかと、思わず疑いたくなるラインナップだ。
最後はとうとう、使ったところ等見た事もないインク壷までぶちまけて、敷かれた絨毯に黒い染みを盛大に作った。
「ヒッ!!」
飛び散るインクに、つい身を引いたメイド達だったが、クビにされては堪らないと、慌てて着替え他の手伝いをし始める。
ピリピリとした空気の中で、当のソアラはイライラと親指の爪を噛んだ。
「毒で苦しんで死ぬアレを見ないと、いつまでもモヤモヤしちゃうじゃない…ぁ、そうよ折角だし短剣も持って行ってやろうかしら。
ねぇ、どう思う?
毒だと長く苦しむんでしょう?」
そんな事を問われても、メイド達だってわからないし、知りたくもない。
誰一人として返事をする事は出来なかったが、ソアラは気にしているふうでもなく続ける。
「それはやっぱり可哀想かしら。
ん~でも苦しめばいいとも思っちゃうのよね~。だってわたくしにこんな手間を取らせるなんて許し難いでしょう?
でも…そうね、わたくしは優しいから、やっぱり短剣ももってってやろうと思うの。
わたくしってば出来た姉だと思わない?」
少し機嫌が直ったかと思えばこの発言で、ルナリスが居た頃は率先して甚振っていたメイド達も、流石にドン引いている。
「なんとか言いなさいよ」
声に苛立ちが加味されて、メイド達は取り繕うように同調した。
「も、勿論でございます。
ソアラ様は女神のようにお優しくていらっしゃいますもの…きっと涙を流して喜ばれる事でしょう……」
メイド達の引き攣った笑みを見ても居ないソアラは、満足そうに頷いた。
「まぁ、女神ですって。
そりゃわたくしだもの、女神と崇められても当然ね」
ソアラの言葉は聞き流して考えないようにしながら、愛想笑いでやり過ごす。
ドレスの希望に、更にドン引くが何とか支度を終えると、先に準備させた馬車に乗り込んだ。
車窓越しに流れる風景を見ているうちに、再びイライラし始めたソアラは、折角整えて貰った爪をまたガジガジと噛む。
「お父様もお母様も、鈍臭いのよ…さっさと書かせて飲ませてしまえばいいのに。
わたくしが直々に出張らないといけなくなるなんて、ほんと使えない人達だわ。その上いつもの馬車を使っていくなんて……あの深紅の馬車はわたくしのお気に入りなのに…」
むっとしたまま、父親の部屋から持ち出してきた短剣を手に取った。
「勢いでこれを選んできちゃったけど、こんな飾り付きのは勿体なかったかも…。
まぁいいわ、どうせお父様のだし、わたくしは困らないものね」
何を想像したのか…再び機嫌を直したソアラは、馬車の揺れに身を預ける様に深く座り直した。




