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時々ではあるが、扉越しに現物を持ってきてくれるよう頼んでみたりした事もある。勿論、ルナリスに対して心ある使用人が通った時に限って…の事であるのは言うまでもない。
「フハハハ!
いやぁ、凄い毒らしい! 解毒薬もないそうだからな。流石はガモール様だ!」
「本当に。
我が公爵家の未来は安泰ね」
何が『流石』で『安泰』なのか、さっぱりわからないが、公爵の言った名前に一瞬固まった。
(ガモール……聞き覚えが…)
公爵夫妻は気付いていないが、ルナリスが小さく眉根を寄せる。
(あぁ、そうだわ。
妃教育で出てきたんだったわね。確かミッケン王国の王子に同名の方がいた筈。この人達が敬称まで付けてるんだから、王族だとするなら納得…。
でも待って……)
ふと、置かれた小瓶に視線を流した。
(この薬…多分ヨーゴン王国の奥で発見された、新種の朝顔の花を使った薬よね?
……メゾットの書庫…どうせ夫妻もソアラ様も読まないのに、最新の書物が次々と仕入れられてて、本当に極楽だったのよね…って、今はそんな事を思い出してる場合じゃないわ。
毒になりそうな…尚且つ甘ったるい芳香で解毒薬がない…と言うと、それしか出てこないんだけど。とは言え、あの花は輸出が禁止されてたんじゃなかったかしら?
となるとヨーゴン王国が関わってる? ミッケンの王子が通常の交易で手に入れられるものではないから、当然裏の取引だろうけど…この浅慮な公爵夫妻と組むと言う事は、ガモール王子もあまりお頭の出来は…あぁ、それはさておき、裏組織の関与の可能性は低そう。だってソレが関わるなら、こんなわかりやすい毒は用意しない筈…。
そうなると国同士の謀略の可能性が出てくるかも。
ただ…ミッケン王国に毒花を秘密裏に渡したとして、ヨーゴン側に何の利益が?
いえ、ちょっと待つのよルナリス…もう一度香りを…ただし多く吸い込まないように…)
まだ何か、ご機嫌で喚いている公爵夫妻の目を盗んで、今一度ルナリスは小瓶から漂う臭いを確かめる。
(一番目立つのは甘い花の香り…でもその中に微かに木のような…ぁ、当然毒性を有するものと考えるなら……ぇ…それがある場所って帝国領内のかなり北側だったような?
どう言う事…?
ヨーゴン王国とイヤノグ帝国が手を組んで、ミッケン王国を陥れようとした?
……でもメリットが殆どないわ。
ミッケンを潰せば儲けは減るし、難民も押し寄せる…しかもミッケンの国土は豊かでもなかった筈…。
そう…視点を変えれば?
ミッケンが陥れられる側ではなく、陥れようとしてる側なら…。
ヨーゴンと帝国から長年に渡って搾取されてきたミッケンが、その2国間に諍いを誘発しようとしてるなら…)
そんな事を考えていた時、突然公爵が大きな声をだして思考が霧散した。思わず舌打ちが出そうになる。
「ルナミア!」
どうやら公爵は、捨て置いたとはいえ実の娘なのに、その名前さえ記憶が曖昧らしい。
夫人の方は覚えていたのか、あからさまに顔を歪めた。
「貴方…名前が違いますわ。
ルルナでしてよ」
……大差なかった。
期待していた訳ではないので構わないが、せめて思考の邪魔はしないで欲しい…と、ルナリスは小さく息を吐く。
「なんでもいい、早く遺書を書いてこれを飲み干せ!
いいか、これ以上手間を掛けさせるんじゃないぞ!」
公爵はそう言って部屋を出ようとしたが、夫人が止めた。
「貴方…小瓶を置いて帰ってどうしますの?
勝手に捨てられたら困りますのよ?」




