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………頭脳ではない。
………性格でもない。
……………所作でも教養でもなく、後ろ盾としての資金や政治手腕でもない…。
仮にも王族が、そんな理由で即決するなんて、ありえないと罵倒されても仕方ない理由………。
…………ただ…容姿の派手さが抜きんでていた……その一点のみ。
緩く波打つ艶やかな金髪に、鮮やかな水色の瞳。
女性らしい曲線を描く蠱惑的な肢体を持ち、『咲き誇るオレンジリリー』とも称されるソアラ・メゾット公爵令嬢。
本人は派手で可憐な花にたとえられて満足そうだが、実のところ褒められている訳ではない。
オレンジリリーの花言葉は『華麗』や『情熱』などが思い出されるだろうが、当然其方ではなく、悪い意味の方で揶揄されているのだ。
ちなみに悪い方の花言葉は『軽率』『憎悪』である。
外見ばかりを飾り立て、内面を磨く努力をする事なく、頭も口も…それ以外も軽い…と嘲笑されているのだが、本人は勿論、彼女の両親も全く気付いていない。
それはさておき、ソアラの光り輝くような初夏を思わせる艶やかさは、トーマスの心を射抜いた。
「俺の婚約者なら美しくないとな!
どんなに素晴らしいって勧められても、小難しい話は俺にはムリ!
可愛くて美しければ、それが俺の正義だ!」
番狂わせの大穴以外の何物でもない……容姿だけの令嬢なんて、全く以ってお呼びではない。王家に新たに加わる新風として、一番選ばれないだろう…というか、選んで欲しくない女性だった。
王妃を始め、セリオールや大臣達も挙って止めた。
止めるくらいなら最初から候補に入れるなと言う向きもあるだろうが、そこはそれ、貴族間のバランスもとらねばならなかったのだ。
必死に説得をしたが、またも王が許可してしまう。
勿論、王族に衆目を集める容姿が必要ではない…とは言わない。
しかし、王家の一員として本当に必要な資質は、器ではなく中身なのだ。
にも拘らず、王は『トーマスが望むなら』と、外身だけで中身の伴わないソアラを、婚約者とする事を許可してしまった。
王自身は政略を受け入れ、賢妃を娶り、以前は愚王だなんて呼ばれる事はなかったのだが、トーマスの婚約者選定を機に、『稀代の愚王』と囁かれ始める。
勿論、ソアラの背後にあるメゾット公爵家への忖度がなかった訳ではないが、既に斜陽が見え始めていた公爵家との縁等、王家にとって旨味があるものではなかった。
それなのに彼は為政者である前に、父親である自分を前に出してしまったのだから自業自得とも言える。
第1子であるトーマスは難産で、王妃共々命の危険に晒された。幼少期も病弱で、王は心配と不安にずっと苛まれる。そのせいで周囲の事情や考えを切り捨て、愛息子を第一に考えるようになってしまっていた。
勿論、そう言った心情を理解する層も居るには居たが、王である以上、そればかりでは困る。
その後も子宝に恵まれず、王はトーマスを真綿で包むように慈しんだ。
これには王妃が早々に異を唱えたが、それに耳を貸す王ではなくなっていて、風にも当てない…まるで深窓の姫君のように育てたのだ。
尤も、ベッドから起き上がれるようになると、王妃が無理やり介入し、厳しく教育し始めたのだが、時すでに遅し……浅慮な甘ったれが完成してしまっていた。
そんな事があり、やっと生まれた第2王子セリオールは、幼少期よりかなり厳しく育てられ、極寒を思わせる容姿と性格に少年になっていった。




