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その言葉に待ったを掛けたのはキドニーだ。
「殿下落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか!!」
平素の冷ややかさなど影も形もないセリオールの様子に、キドニーは含めるように言葉を続ける。
「ルナリス様の御命が目的なら、この場で殺害した筈です。
しかし誘拐した。何か目的があると考えるのが自然でしょう。
それにここで大事にするのは得策ではありません。下手に漏れればある事ない事吹聴し、ルナリス様を貶めて足を引っ張ろうとするでしょう」
セリオールは忌々し気に舌打ちした。
それは自分が望んだから、ルナリスを危険な目に合わせてしまったと言われているようなもの…。ただのお飾りでも、王家の名は魅力的なのだろう。
「私に娘を差し出そうとしてきた貴族家を洗え。それと「あの……」」
セリオールの指示を遮るか細い声に、その場にいた全員の眉間に皺が寄る。
「申し訳ございません。
殿下の御言葉を遮る等…不敬は承知しております。如何様にも御処分ください。ですが思い出した事が…」
セリオールは声の主である侍女と目線を合わせた。
「何をだ…どんな事でも良い、話せ…話してくれ、頼む!!」
未だ青い顔の侍女を問い詰めるセリオールを、キドニーが止める。
「殿下…それでは侍女が怯えます」
ハッとするセリオールをマリルーに預け、キドニーが侍女に向き直った。
「すまない。殿下のお気持ちを察してくれると助かる。
不敬も問われないようにするから安心して欲しい」
「とんでもございません、ルナリス様をお守りできず、申し訳なく……」
「それで? 思い出した事とは?」
「ぁ、はい。
賊が…わたしを拘束していた者なのですが、彼が呟いた言葉がこの国の言葉ではありませんでした」
セリオールは当然として、騎士達もピクリと反応する。
「何処の言葉かわかるか?」
「はい。あれはミッケン王国の言葉かと思います」
思いもしなかった情報に、全員の眉間の皺が深くなった。
「それは確かか?」
「はい。我が家の領地は北の国境に近く、訪れる隊商の半分は彼の国のものです。
ヨーゴンや帝国は他の道もありますから…。ですので我が領の者で、ミッケンの言葉を一つも聞いた事がない者は殆どおりません」
「何と言っていたかわかるか?」
やっと落ち着きを取り戻したセリオールが尋ねると、侍女は少し考え込む。
「申し訳ございません。
全てを聞き取る事は出来ませんでしたが、多分『馬』という言葉は聞いたように思います。それと『池の奥』と…」
そう言って頭を下げる侍女を、やっと来た医師に預け、セリオール達は難しい表情で浮かべる。
「馬で運ぶ…と言う意味でしょうか?」
キドニーの呟きに、セリオールが考え込む。
「この離宮まで馬が入り込めるか?」
「可能です。ですが普通に入ってくれば倉庫の前を通りますので、誰にも気づかれず…と言うのは不可能だと思います」
答えたのはマリルーだ。
「となると、その道以外と言う事だな…」
キドニーの呟きに、マリルーがハッと顔を上げる。
「あ、そう…そうです。
ルナリス様をここへ案内する際に、警備の為にざっと見取り図などを確認したのですが、この奥に温室があった筈です。
図面で確認するまで温室の存在は知りませんでした。もしかすると今は使われていない可能性がありますが、古参の庭師なら何か知ってるかもしれません。直ぐ情報を集めてきます」




