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「殿下!!」
突然響いた鋭い声に、セリオールは弾かれたように顔を上げる。転げるように駆け込んで来たのは、キドニーが先触れに出したマリルーだった。
離宮であっても宮内を走る等、騎士であっても普通は控えるべきだ。当然マリルーもそんな事は百も承知している。
それでもなお駆けてきたと言う事は、緊急事態に他ならない。
キドニーは緊張を漲らせ、セリオールの前に一歩出た。
「どうした?」
「た、大変です!」
喉が張り付いたのか、言葉が途切れて続かず、マリルーは喉を押さえた。
見れば顔は青くなっている。
「落ち着け。何があった」
キドニーの声に頷き、マリルーは呼吸を整えた。
「も…申し訳ありません、ですが、ルナリス様の御姿がありません!」
「「!?」」
セリオールは勿論、キドニーも目を見開いて固まった。
「ルナリル様の御部屋の隣室には、侍女が縄で縛られ、意識を失っておりました」
セリオールは取り乱し、マリルーの方を掴んで揺さぶる。
「どう言う事だ!?
侵入者が居たと言う事か!?」
マリルーの返事を待つ事なく、セリオールはルナリスが避難していた部屋へと走り出した。キドニーとマリルーも続く。
バンと壊れんばかりに開いた扉の先に、青白い顔で床にへたり込む侍女と、彼女を介抱する者の姿が視界に入った。
彼等の顔がセリオールに向けられる。
青白い顔でへたり込んで居た侍女が、床を這うように近付き、セリオールの手前で額を床に擦り付けた。
「も、申し訳ございません!!
ルナリス様が……あぁ、ルナリス様が……あぁぁぁぁぁ!!!」
キドニーが前に出て、土下座する侍女の傍らに片膝をついた。
「落ち着け。
ゆっくりでいい、状況を話せるか?」
顔を上げた侍女は、コクコクと何度も首を縦に振る。
その侍女が言うには、ルナリスは指示通り、部屋で大人しくしていたと言う。
手入れはしっかりとされているものの、他国からの来賓があった際に使われる程度の離宮は、少し離れた静かな場所にあった。ただ使用目的から他国の本が多数置かれていて、庭も普段あまり目にしない異国の植物が植えられたりしている。
そのせいか、ルナリスは退屈していないようだったと、まだ立てずにいる侍女が話している。
警備については護衛騎士達を配備したが、何分急な事だった為に、手薄であったことは否めない。
その為、声をあげる間もなく拘束された侍女は、助けを求める事も出来ず床に転がされたそうだ。
入り込んできた賊は一人ではなかったようで、ルナリスを襲った者は別にいたらしい。侍女は何とかしようと暴れたそうだが、元はただの貴族令嬢でしかない侍女の抵抗など、大した障害にもならなかったようだ。あっさりと昏倒させられてしまったらしい。
結局分かった事は、賊は複数人居た事だけ。
ルナリスが居た部屋の方を調べに行っていたキドニーが、セリオールの傍に戻ってきた。
「金銭目的ならば要求を残しているかと思ったのですが、何もありません」
「っ……なら、一体何が目的だ…」
セリオールはギリと歯噛みする。
強く握りすぎた拳に、血が滲んだ。
マリルーが慌ててセリオールの手当を指示するが、当の本人はそれどころではない。
「直ぐに捜索を!」




