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「会いたい…お会いしたいのです…でも」
『無理かもしれない』という思いが頭を擡げる。
だって逃げられない。逃げようがない。
そこで、ふとルナリスは違和感を感じた。
(でも…そう……どうやって私をここまで?
あの公爵夫妻やソアラ様が、何のミスもなく…?)
ルナリスは微かに眉根を寄せた。
王宮の奥まった一室で行われている話し合いだが、現在は休憩中である。
ここまで互いの話が噛み合わないと、疲労感ばかりが蓄積して、言葉が繋げなくなってしまったのだ。
いや、メゾット公爵家側は踏ん反り返って、ぎゃあぎゃあ喚く元気があるのだが、セリオール達の方は肉体的にも精神的にもかなり削られている。
「もう、なんだってこんな堂々巡りになるのかしら」
隠しようのない疲労が溜息となって零れ出る王妃に、皆が頷いた。
「通達も何もかも、控えを取り記録を残してはありますが、しくじりました…」
書記官の一人が顔色悪く項垂れた。
「えぇ、まさかサインをしていないから聞いた事にはならない…なんて言いだすとは」
「通達にサインが必要なんて、これまではありませんでしたから。
普通、通達に双方の合意は必要ないですからね…」
頭を抱え込む宰相を、文官が気遣っている。
「それにしても、よくもまぁいけしゃぁしゃぁと~~~~っ!!」
ボキリと、とうとう王妃が扇を二つ折りにした。
王家サイドが疲労感に苛まれている頃、別室に放り込まれたメゾット公爵家の3人の方はと言うと、ソファにドカリと身を預け、立ったままの2人に仏頂面を向けていた。
「それで……本当にうまくいくんでしょうな?」
メゾット公爵が苦り切った顔で護衛の一人に聞いている。
護衛は2人。
一人は騎士で、もう一人は兵士だが……その兵士の方に何故か敬語で問いかけている。
「どの策について聞いている?」
兵士の方は顔を上げると不遜に笑う。
笑みを消し肩を竦めてから、公爵の体面に座った。
「ったく…お前のせいで色々と手違いばっかりだよ」
「あらぁ~わたくしのせいじゃありませんわ。
わたくしの立ち位置がコロコロ変わったのは、周りのせいですもの」
兵士の方は兜を脱ぐと、ソファの背凭れに頭を預けて、何房に右手で髪を掻き上げる。
「お前らと手を組む羽目になるなんて、番狂わせもいい所なんだよ…」
「ですが、その手違いをしたのもそっちじゃありませんか」
兵士の言葉に反応したのはメゾット夫人だ。
「ま、そうなんだがな。
ったく…王太子…あぁ、元王太子か…アレが第1王女に求婚したのがそもそもの原因なんだよなぁ」
兵士は背凭れに預けていた上半身を起こし、テーブルの上に置かれていた菓子を口に放り込む。
ブルームロード王国は南側が海に面した国で、東にヨーゴン王国。
西側から北東に掛けては、イヤノグ帝国がある。
そのヨーゴン王国とイヤノグ帝国はブルームロード王国北側で隣接し、その両国の北東にミッケン王国…と言う位置関係になっている。
ミッケン王国は周囲を山や崖で囲まれていて、天然の要害とも言える地形なのだが、それは言い換えれば逃げ場がなく、通る事が可能な道が限られると言う事。
交易するにも何をするにも、南の…港を擁するブルームロード王国へ抜けなければならず、その為にはヨーゴン王国かイヤノグ帝国…そのどちらかを通らなければならないのだ。




