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思考が空回る。
必死に言葉を整理して理解しようとするのに、麻痺でもしたように上手くいかない。その癖、心臓は別の生き物みたいに胸の奥で跳ねていた。
(どういう…事?
殿下は王太子で、何でも望むまま手に入れられるんじゃないの?
なのに…好き……私なんかを?
私の事を見て、私の意思を無視しないでくれるの?
いいえ、嘘よ…こんなの夢でしかない、期待してはダメ)
無意識に喜びで緩みそうになる心を、必死で戒めようとするのに、彼が紡ぎ出す言葉が、どうしてもルナリスの頑なな心を解きほぐそうとしてくる。
自分は罪人だからと、必死に手渡された包みにも言い訳を並べていた。
受け取る訳にはいかない…受け取ってはいけないと…。
物だけじゃなく感情も、自分が受け取れるものはないのだと、ずっと戒めてきた。
(望んでも……手を伸ばしても良いの…?)
この時、ルナリスの胸に暖かなものが灯った。
そうして、ゆっくりと自分の感情を見つけ、目を凝らし……でも、まだ名前を付けるには至らない。
何故なら、これまで経験した事のない感情だからだ。
それでもわかった事はある。
セリオールは自分を見てくれる。
もしかしたら、安心して…信じて良い相手かもしれない、と。
心を辿ったのは、存外自分を落ち着かせるのに役立った。
かなり気恥ずかしくもあるが、さっきまでの焦燥感は鳴りを潜める。
あの時にはまだわからなかった…名前が付けられなかった想いだが、今はわかっている。
安心感と信頼感の予感はゆっくりと変化し、今はルナリスの『特別』になっていた。
ふと…浮かぶ笑みに気恥ずかしいものを感じて、取り繕う様に焼き菓子へと手を伸ばした時だった。
ふわりと冷えた空気が頬を撫でる。
窓は閉めていた筈…と、顔を向けようとした瞬間、ルナリスの視界は暗くなり、意識も深く沈み込んでいった。
そして……この倉庫の一室で目を覚ましたのだ。
ルナリスは目を伏せて俯く。
自分はどうしたいのだろう…。
考えても……以前は簡単だった。
隠れるようにしてではあるが、それでも気遣ってくれる古くからの使用人達の存在に慰められていた。だから、彼等の命を盾に取られてソアラの嘘……犯罪の片棒だって担いだ。詐称は立派に犯罪である。
けれど本音では、いつだって逃げたかったし、消えてなくなりたかった。
用事を言いつけられ、屋根裏に荷を取りに行ったとき…窓から見える地面に、このまま重力に身を任せれば楽になれるかな…なんて考えた事もある。
その時は、遅いから…と呼びに来た使用人がいて実行には至らなかったが…。
死にたいと言うか…消えたかった。
いつだって怖くて、苦しくて、悲しくて…そして寂しかった。
気に掛けてくれる皆の想いが嬉しくて、心強かったのも本当だが、それでも自分の中の負の感情を消し去れずにいた。
だから……消える為の手段が死しかないなら、それでも良いと思っていたように感じる。
でも今は…あっさりと自分を手放せるか自信がない。
「……セリオール様…」
零れ落ちた呟きで我に返ったのか、ルナリスは息を呑む。
それから唇を噛み締め、クシャリと顔を歪めた。
ルナリスの世界を変えた人。
頭で考えるより先に、心が答えを出していた。
消えるとか、死ぬとか……そうではなく、ただ彼に会いたいのだ。
顔を見て、声を聞いて…結局、それが全て。




