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ルナリスの頭の中が疑問符で埋め尽くされる。これまで想定していた理由で、この状況に合致するものがない。
逃亡の危険がない犯罪者を、仮にも王太子ともあろう者が抱き締める?
到底ありえないと、脳が思考を拒否するのも仕方ないだろう。
そんなルナリスに気付いているのかいないのか…セリオールは必死に続ける。
―――違う
―――自分を罪人だなんて言わないで、お願いだ
―――私は……私はね…
抱き締める腕が緩み、顔を覗き込まれる。
鼻先がくっついてしまいそうな程の近さに、息の飲む様な美貌と静謐な銀瞳があって、ルナリスは思わず身を引こうとした。
少し緩んでいた腕に、今一度力が籠められ身動きは叶わない。
―――君を見てきた
―――ソアラ嬢の傍に控えていた時も
―――そして罪を話してくれた時から今までずっと
―――婚約者はソアラ嬢の方だったのにね…
―――不埒な男だと責められるだろうか…
セリオールは何を言おうとしているのか…わからないなりに、自分が聞いてはいけない何かだと思い、ルナリスは必至に逃れようと身を捩る。
―――でも…もう自分を騙したくない
―――放さない
―――願わくばずっと私の傍にいて欲しい
想像もしなかった言葉に、ルナリスは動けなくなった。
―――君の気持ちを無視したりしない
―――私は元から王族だから、そんな言い分は通用しないけど
―――ルナリス…君の気持ちは大事にしたいんだ
―――だから
声が途切れる。
ルナリスもまた、動けないままセリオールを見つめた。
―――だから、私の気持ちを先に言うよ
―――ルナリス……君が好きだ
―――幸せにしたい……
そこまで言って、セリオールは照れ隠しのように肩を小さく竦めた後、真剣な様子に戻る。
―――君の気持ちを無視するつもりはないから
―――都合の悪い事もちゃんと話す
―――王族だから…毎日が戦場だ
―――主に精神的な…だけどね
―――苦労は多いし、我慢も強いられる
―――公務に追い立てられるし、自分の時間なんて殆どない
―――それでも、私は君に傍にいて欲しいんだ
―――君と一緒に…幸せになりたい
抱き込まれていた身体が少し離れる。
すっと通る空気が、熱くなった体温を下げた事に、ルナリスは寂しさを覚えた。
―――返事は急がない
―――けど、嫌じゃなければ考えて欲しい
―――私との未来を…
今度こそ身体が離れた。
セリオールの手も外されて……彼はさっきまでの熱量を誤魔化すように苦笑を浮かべる。
―――だから、まずは一歩…かな
―――それは受け取って欲しい
―――本…好きなんだろう?
―――使ってくれると嬉しいよ
セリオールは更に一歩下がった。
―――あ、それと…
―――ルナリスが自分を罪人とか咎人っていうのは、今日で最後
―――王家としては情けない話なんだけど…
―――私の婚約者については、まだ公表されてない
―――何しろ色々ありすぎたからね
―――兄上と父上のお蔭で、振り回されっぱなしなんだよ
―――もしかするとルナリスも聞いた事があるかもしれないけど
スンと苦笑を消し去ったセリオールは目を伏せる。
―――ソアラ嬢の内定も、教育代行疑惑も……
―――全部なかった事に出来るんだ
―――まだ…ね
―――だから、どうかもう自分を責めないで欲しい
―――大丈夫
―――私を選ばずとも、ちゃんと握り潰すから
―――そこは安心して欲しい
―――…ぅ~ん、何か必死過ぎてカッコ悪いな…
眉尻を下げて情けなく笑うセリオールに、ルナリスの心臓が音を立てた。




