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私さえ消えれば、全て丸く収まるのでしょう  作者: 紫


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 いつだったか…扉の外に人の気配を感じてから暫くした頃、遠慮がちに扉が叩かれる。

 開いた扉の向こうに居たのはセリオール。まだ自分が婚約者に選ばれたと知る直前だった。思いがけない人物に、ルナリスは目を見開いて固まってしまう。



「…あの時は吃驚したんだったわ」



 ―――ごめん、驚かせてしまったかな

 ―――その…今日、職人街の方へ視察に行ったんだ

 ―――――まぁ、それはお疲れさまでございました

 ―――うん、それで…これ

 ―――――これは?



 手渡された物は、飾り気のない…けれど丁寧に包まれた小さくて軽い物。



 ―――開けてみて



 手渡した当人―セリオールは照れたようにぎこちない笑みを浮かべている。



 ―――――私が…ですか?



 王子…しかも王太子である天上人から、自分が何か貰えるなんてありえないと、ルナリスは怪訝な表情で首を傾げた。

 その時は、まだ処罰の執行猶予期間なだけ…と本気で思っていたのだ。


 逃げる宛ても術もない子供だから、牢ではなく普通の部屋で過ごす事を許されているにすぎず、罪人だけど、素直に知る事は話して協力的だったから情けを掛けて貰えた…そう納得していた。

 だからこそ、些細な物でも下賜されるなんて、おかしな話でしかなかった。



 ―――――私は咎人です…

 ―――――王太子殿下に何かを頂けるような人間では…



 そのうち刑が執行されると言うのに、どう受け止めれば良いのだ…と、ルナリスは泣きたくなった。

 何かを与えて喜ばせ、処刑の際に全て取り上げて絶望させる算段なのか…とも。そんな悲しい想像しか頭に浮かばなかったのだ。


 ルナリスが泣きそうになっているのを見て、セリオールは何故か狼狽える。

 辛くて、苦しくて…俯いたまま顔があげられなかったルナリスだが、彼の声に紛れる狼狽に戸惑いを隠せない。



 ―――っ!……ぁ、ぃゃ、待って…そうじゃない

 ―――ごめん、あぁ…私は情けない人間だな…うまく言葉が出ない



 セリオールはガシガシと、自分の髪を鷲掴んで掻き回す。

 表情は情けなく眉をハの字に下げていて、怜悧母消し飛んでいた



 ―――えっと……そう、ちゃんと調べてる、いや…調べた

 ―――君は…君達は公爵達にいい様に使われていただけだろう?

 ―――ただ…すまない…



 しゅんと萎れる彼の声音に、さっきまでの悲しさは、ゆるゆるとその気配を薄くしていく。



 ―――貴族家…しかも公爵家ともなると…ね

 ―――処罰の対象にするのが難しい

 ―――決定的な証拠が見つけられなくて…

 ―――被害者の証言と状況証拠だけでは……



 まさか、そんな事を気にしているとは思わなかったルナリスは、パッと顔を上げた。

 目に入ってきたのは、苦し気に歪めた表情のセリオール。



 ―――――そんな…公爵様達はともかく…

 ―――――私が罪人である事に変わりはありません



 何とか笑みを形作ろうとするが、うまく出来たかわからない。

 だが、急に手を引かれて、視界が暗くなった。

 何が起こったと問う間もなく、頭の上の方から声がする。

 気付けば、ルナリスはセリオールに引き寄せられ、抱き締められていたのだ。




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