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そんなこんなで会話にならず、果ては『こいつ本当に人間か? 頭の中に詰まってるのは綿か? それとも空気か?』とまで、セリオールがドン引いた事等、ソアラは気付きもしていない。だからこそ、言えた科白だろうが……。
可哀想なのはセリオールだ。
理解不能な相手に対する不気味さや嫌悪感のせいで、全身が粟立っていた。
自身を宥めるように腕を擦るセリオールに、焦れたソアラはとうとう前に進み出た。
「迎えにも来ないってどう言う了見なのよ!!??
愛する妻を蔑ろにする夫なんて、そんなにわたくしに嫌われたいんですの!!??」
愛していたら蔑ろになんてしないし、是非とも嫌って欲しい…という突っ込みはしない方が良いのだろうか…?
それはさておき、前に進み出たソアラは、何を思ったのか唐突にセリオールに掴み掛った。
室内に緊張が走るや否や、セリオールの警護についていた護衛騎士が割って入る。
いつぞやの再来か…暴挙に及んだソアラを抑えるべく近衛達の増援が到着した。それに眉を吊り上げた公爵夫妻もまた叫んで暴れ始める。
「ちょっと!
わたくしに触れたいのはわからないじゃありませんのよ? 美女の宿命だもの!
あぁ、美しすぎるって罪なのね…でも、その御顔では無理よ! 鏡を見てから出直してらっしゃい!」
「貴様ら…い、痛いではないか!!」
「まぁあああぁぁ!! この宝飾品はわたしませんわよ!!
騎士如きの薄給で手が出せる代物じゃないの!!」
騎士達の顔から表情が抜け落ちて虚ろになっている。
自分に酔うソアラも、痛がる演技で逃れようとする公爵も、被害妄想が激しい夫人も……全く以って理解不能で、虚無感に襲われるのも当然であった。
騒ぎ立てるメゾット一家を、虚ろな騎士達が淡々と別室へ連行して行く。
とてもではないが、話し合いが出来る状況ではないので、とりあえず一旦物理的に距離を取る事にしたのだ。
扉が閉まると同時に、関係者達は揃って盛大な溜息を吐く。
それはもう寸分違わぬシンクロ率だ。
そんな話し合いの席に姿を見せていないルナリスは…と言うと、喧騒とは無縁の静かな離れの一室に留め置かれていた。
セリオールも王妃も、毒一家とは会う必要がない…と、言ってくれたからである。とは言え、騒ぎは聞こえずとも、どことなく落ち着かない…張り詰めた空気感は肌で感じている。
感じてはいるが、それを明確に言葉で表現できそうにない。しかし、わからないなりに何故か膨らんでいく焦燥感に、ルナリスは落ち着かなくて室内をうろうろとしていた。
(何が起こっているの?
セリオール様も王妃陛下も、この部屋から出てはいけないとおっしゃっていたけれど…言われた事を違えるつもりはない……でも、だったらどうして部屋の前に騎士が立っているの?
私を逃がさない為…と言うより、警護と言う感じで怖いわ)
落ち着かないからと言って、室内を徘徊しても何も変わらない。それはわかっているのだが……ルナリスは溜息を一つ落としてソファに座る。
テーブルへ視線を移せば、そこには焼き菓子と平積みされた本があった。
本を手に取る。
読みかけだったそれには、栞が挟まれていた。
栞を手に取って本をテーブルに戻す。
薄い銀板に細工を施したそれは、ルナリスがまだ自分が婚約者に選定されたと知らない頃、セリオールがくれた物だった。




