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「セリオール様ったら悪趣味ですのね。
わたくしと言う者がありながら、あんな見窄らしい…言うなればゴミに目移りなさるなんて。
里下がりで不在になったのは悪かったと思ってますけど、だからってアレに手を出すなんて…悪趣味が過ぎますわ。
そんなに寂しかったんですの?」
メゾット一家以外の全員が、ゾワリと這い上る不快な何かに、思わず腕を擦った。
王宮で暴れた事、妃教育もまともに受けなかった事諸々、どうやったら忘れられるのかわからないが、彼等の中では欠片も残っていないようだ。
会話が成立しない事は知っていた……しかし、改めて再認識させられる。
こいつら真面じゃない…と…。
つまり、公爵家面々の言い分を要約すると……。
『王太子妃になれるのはソアラだけで、ルナリスは里下がりしたソアラの代わりに、その席を温めていただけの、ただの置物。
ソアラが戻った以上、アレは必要がなくなったので持ち帰る』
という事らしい。
一室に移動した関係者…勿論公爵夫妻とソアラを除いた…と注釈がつくのだが、その全員が眉間の皺を、マリアナ海溝並みに深くする。
それだけに留まらず、王妃は手にしていた扇の骨を綺麗にボキリと折った。
セリオールに至っては、射殺さんばかりに睨み付け、威嚇するようにギリと歯噛みした。
何しろ『連れ帰る』ならまだしも…いや、言い換えた所で断固拒否する事に変わりはないのだが…『持ち帰る』……人間扱いをしていない。
許し難い暴言だ。
だが、残念な事に…セリオールも王妃も、理性を持ち合わせていたので辛うじて耐えきってしまう。
今一度、呼吸を整えて気を落ち着けた。
そして同じ説明を繰り返す。
里下がりの時に、婚約の見直しについて一応言及した。
その後、妃教育代行疑惑の調査が進んだ時点で、見直しではなく白紙撤回と話した。
再選考となって、ルナリスの資質諸々だけでなくセリオールが望んだ事で、ルナリスが婚約者となる事も報告した。
そうやって、きちんと手順も段階も踏んだと説明しているのに、彼等の記憶からは、自分達に不都合な事象は全て抜け落ちる仕様になっているらしい。
これは厄介だ…と、誰もが唇を引き結ぶ……が、とうとうソアラが業を煮やした。
「聞いてらっしゃいますの!?
セリオール様の妻となるのはわたくし!
こんな美女が妻なんて、セリオール様だって鼻が高いでしょう?
さぁ、さっさと妻の手を取って抱き締めて!!」
いや、美醜の基準なんて人其々だし、少なくともセリオールはソアラを美しいと思った事はない。
勿論感想を持ったことはある。
だが、それは一般的には決して褒めていない感想だ。
さらっと思い返しただけでも直ぐに浮かぶのは、先ず『臭い』である。香水がきつ過ぎて、体臭も相まって最早『異臭』としか思った事はない。『体臭』から『た』を抜いただけなのに、あまりにドンピシャ過ぎて笑いしか出てこない。
他には『馬鹿』…。まぁこれは説明不要だろう。
会話が成り立たないのもいつもの事だ。経済活性化の話を振っても、返ってくるのは花壇の花が気に入らない…等、実にくだらない事ばかり。
百歩…どころか万歩ほど譲って、気に入らないから植え替えれば経済に貢献できるだろう、異国から取り寄せて新たな交易に…とでも言うなら、少しは考えているのだな…と、思わなくもない。
何も思いつかないよりはマシだが、その程度で経済貢献になれば誰も苦労はしない。




