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ルナリスは後から知った事だが、度重なる不始末と変更で、王宮内の誰もが疲労を蓄積させていたらしい。
辛うじて幸いだったのが、外に漏れる事無く王宮内の騒動で済んでいた事…その一点だけ。
だが…そんな一点さえも消し飛ぶほどに彼等の疲労を助長していたのは、連日届くメゾット夫妻からの抗議文書、そして突撃。どういう難癖をつけていたのか、当時は知らなかったが、本当に申し訳なく思う。
彼等と家族であると言う認識はないが、それでも血は繋がっている以上、無関係だと捨ててしまって良い物かどうか悩みどころであった。
そんな、一見…穏やかに見える日々を過ごすうち、ルナリスとセリオールは、ゆっくりとではあるが距離を縮めていく。
「ルナリス」
名を呼ばれて振り返った先には、セリオールがぎこちない笑みを浮かべて立っている。その手には小さな包みがあった。
「殿下…どうなさいましたか?」
今は妃教育の間の休憩時間で、そんな隙間時間にも学習に余念のないルナリスを労おうと思ったのだ。だが、まるで小動物のように愛らしく小首をかしげるルナリスに、セリオールはクッと息を詰め、その鼻筋に朱を刷いた。
「ぁ……ぅ…ぃ、ぃゃ…その……菓子を持ってきたのだけど…その…一緒にどうだろうか?」
ソアラの代行ではなく、ルナリス自身として妃教育を受けるようになった事で、彼女の生活は平穏に…だが急激に変化した。勿論の事だが悪い意味ではない。
最初に特筆すべきは食。
空腹に悩まされるどころか、反対に多すぎて食べきれず、勿体ないと思う事がしばしば…。これは、流石に勿体ないので…と量も品数も減らすようお願いした。
味は薄過ぎず濃過ぎずで上品。
正直に言うと、最初は味なんてわからなかった。多分味蕾も吃驚しすぎて仕事が出来なかったのだろう。
味蕾が仕事をし始めても『凄い』の一言に集約してしまう始末で、自身の語彙力の無さに悲しくなる。
当然のように菓子なんて口にした事はなく、初めて経験する甘さに、涙が零れた。それにセリオールが慌てふためく様は、今となっては笑い話になっている。
他にも衣服…メイド用のお仕着せ以外で、擦り切れていない服なんて持っていなかったし、宝飾品なんて…自分とは縁のない、違う世界の話のように思っていた。それなのに、今は豪奢で洗練されたドレスやアクセサリーに囲まれて、夢としか思えないような状況だ。
睡眠も、ふかふかの…しかもいい香りのする寝具に包まれて、身体が痛くなることがない。
教育についても周りは厳しいと言うが、ルナリス自身はとても楽しんでいた。
ほんの少し前までは考えられないような生活に、現実感がないまま恐縮するルナリスを、セリオールは心から愛おしんでいる。
「まぁ…今日も頂けるのですか?
そんなご褒美…良いのでしょうか…」
「良いに決まっている!」
必死さが裏目に出て、つい声が大きくなってしまったセリオールは、ルナリスを怯えさせてしまったのではないかと、困惑に顔を歪めた。
「ご…ごめん……その…」
だが、一瞬目を丸くしたルナリスは、今は怯えたりしない。ふわりと柔らかな笑みを浮かべて、セリオールを更に翻弄するのだ。
正直、周囲の侍女達は日々目のやり場に困っているのだが、冷え切った関係よりずっと良いと微笑ましく思われている。




