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「違う。
まぁ、その……教育代行の話はもう随分と聞かれただろう? というか、ある程度は把握している。
それはそれとして、どうかな……まだ私が怖い?」
『把握している』と言われ、ルナリスの身体から力が抜けた。
それもそうか…と、妙に納得する。
調書が王族の手に渡らない訳はないし、何よりバレない筈がないのだ。あんな稚拙な計画が、どうして上手くいく考えられたのか…両親と姉の頭の中…思考もそうだが、もしかしたら構造も独自の進化…あるいは変異を遂げているのかもしれない。
あの時、震えていた自分を思い出しながら、ルナリスは…まだ何も書かれていない羊皮紙に視線を落とす。
何度目かわからない溜息を落とすと、再び記憶の海に漕ぎ出した。
彼女が高熱で意識が朦朧としている間に、姉ソアラは里下がりを命じられていた事を、取り調べを受ける中で知った。
公爵夫妻が、実行犯の一人であり証人となるルナリスを、何としてでも連れ帰りたかっただろうに、ソアラの里下がりを優先した事にずっと引っ掛かっていたのだ。
それには理由があったと、ルナリスは考えている。
妃教育を妹に代行させていた事も、当然だが重罪である。
しかし、それよりも重大な何かがあったのではないかと思うのだ。
これは誰にも言っていない。
確証もないし、セリオールに相談が出来るような想像ではなかった。だが当時の様子から、そう導き出した事なのだが…。
姉ソアラは不貞をしていたのではないか……と、ルナリスは考えている。
妃教育代行がバレかけて、姉はそれを誤魔化す為か…それとも他に理由があったのかはわからないが、あの時は暴れて手が付けられなかった。
暴言を吐くのは何時もの事だが、物にあたる……花瓶や茶器を床に叩きつけたり蹴飛ばしたり…侍女達にも手を振り上げていた。
辛うじて、ソアラが気に入って傍に置くようになった護衛兵士の一人……何時も兜を被っていて、顔を見た事はないのだが、多分年齢は若そうな兵士だけが近付けた。そんな彼をソアラと二人きりで残して、部屋から何度も追い出された記憶が、しっかりと残っている。
まだ公表前だったとは言え、王太子に嫁ぐ令嬢が不貞だなんて、とんだ醜聞だ。
恐らく両親である公爵夫妻は、大いに焦った事だろう。
ソアラを連れ帰るのに必死にならざるを得ず、ルナリスの事はすこんと抜け落ちてしまった。
でも…とルナリスは再び考え込む。
不貞があったとして、それでソアラを連れ帰る理由にするだろうか?
どちらかと言えば、相手…若い兵士の方をどうにかしようと、あの人達なら考えるように思える。
ほぼ関係なく育ち、家族と言う認識も乏しい相手ではあるが、この短い期間の接触でさえ、かなり浅慮な……まぁ、短絡的な人達だと言うのはわかった。
そんな彼等が、物事を天秤にかけて優先順位を決めるなんて事が出来るだろうか…?
考えるうちに、吐き気を催すような想像に行きつく。
一番考えたくない事だが、もしかすると不貞の果てに、妊娠に至ってしまったのではないだろうか?
そうであれば、何を置いても連れ戻したかったと言う行動が納得出来る。
証拠がある訳じゃない。
だから、どこまで行っても想像の域を出ないのだ。
振り切って、思考の軌道修正を図った方が精神衛生的に良いだろう。変な妄想を加えずとも、今ある事実だけでルナリスを疲弊させるには十分だ。




