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私さえ消えれば、全て丸く収まるのでしょう  作者: 紫


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 当たり前の事だが、逃亡は失敗して連れ戻されて閉じ込められる。挙句、虐げられてきた自分を、これまで思いやってくれた使用人数名の命を盾にとられた。



 生まれてすぐの頃は知らない…しかし物心ついた時には、既にルナリスの部屋は本棟にはなく、中庭の奥にある物置小屋の片隅に置かれていた。

 用事を言いつけられた時以外は、物置小屋から出る事も禁じられ、心ある使用人数名が、こっそりと運んでくれた食事がなければ、早々にこの世から消えていた事だろう。


 ある時は硬くなったパン一つしか手に入らなかった…と泣き、大雨の中…それでも運んでくれたスープが冷えてしまった…と、項垂れた彼等の苦しげな顔を思い出す。


 まだ幼児で彼等に何かした訳でもない自分に、何故そんなに良くしてくれるのか…と聞いた事がある。

 皆『お嬢様だから当然です』と言っていた。そんな理由にならない理由に首を捻っていたが、どうやらルナリスは先代夫人に似ているらしい。


 ルナリスの部屋が置かれた物置の隅で、捨てられたように放置された肖像画の一枚に、まるで自分の未来を写し取ったかのような女性が描かれているのを見つけた事がある。

 それを見た使用人達は慌てて綺麗に拭いていた。

 きっと先代夫人に恩義を感じているとか何だとか…なのだろう。


 メゾット夫妻は、ルナリスが使用人達の手で生き延びている事に苦い顔をした。

 尤も、執事長に…。


「正式に公爵家の第2令嬢として届け出たお嬢様が、あのように痩せ細っているのを見られれば、公爵家の体面に傷がつきます。評価は下がり、最悪王家からの調査の手が伸びるでしょう。

 旦那様はそれをお望みなのですか?」


 と言われ、それから先は食事が許されるようになった。

 しかし貴族令嬢としての教育は不要と判断されたのだろう。使用人として働き、読み書きさえ教えて貰えないまま成長する。


 そのままでもルナリスは構わないと思っていたが、幼い頃から命を守ろうとしてくれた使用人達は、秘かに読み書き計算などの、初歩的な教育も与えてくれたのだ。


 文字が読めるようになると、夜中に『内緒ですよ』と言って本を差し入れてくれたり、仕事の合間に質問をしたり…と、心を砕いてくれる。

 その内、姉ソアラに家庭教師がつき、授業の一部が中庭で行われるようになると、その声がルナリスの住まう物置小屋にまで、小さく聞こえてくるようになった。


 ルナリスは仕事のない時、その話に耳を傾け、自ら勉強し始める。

 元々地頭が良かったのか…乾いた地面に水が染み込む様に、どんどんと知識を吸収し、勉強を嫌うソアラとは比べ物にならない程の令嬢として完成していった。




 何が切っ掛けだったのか…それを知った公爵一家は、ルナリスを書庫に放り込んだ。

 享楽的で根気のないソアラの代わりに、勉強他…面倒を押し付けるのに丁度良いとでも思ったのだろう。


 朝から晩まで使用人としての仕事をこなし、空き時間は勉強や刺繍に明け暮れる。

 そんな日々を過ごしていたある日、突然書庫から引き摺りだされた。

 驚愕する暇もなく、夫人の前まで連れて行かれると、ルナリスを引き摺ってきた誰かの手で床に頭を押し付けられる。


「ほんと…あのババァそっくりで嫌になるわ。

 でも、ソアラちゃんの為に、お前には働いて貰わなきゃならなくなったの」


 冷ややかな声に、ルナリスはビクリと震えた。





明日は5時17時の2話投稿を予定しています。

どうぞ宜しくお願いします<(_ _)>

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