21.特異体
ヴェスレギオンは三機を一部隊として運用されている。
地球のように星そのものが汚染されているのではなく、まだ『外から侵入している』段階では、アンゲルスが一度に出現する数は多くて10体。その頻度も数週間から数カ月に一度である。
今回のように、二部隊六機も展開させればほぼ制圧は可能である――そう、トキハもそう考えていた。
◆◆◆
六機の白い巨人が海の上を飛翔する。
背部の飛行ユニットから銀色の光を発し、斜めに直列しながら、中央を包み込むように展開をする。
その行く手には世界を侵食する穴。黒い闇の中から、泡のように物体が浮かび上がる。
赤ん坊のような体に黒い羽。アンゲルスが出現するのとヴェスレギオンが空域に到達するのは、ほぼ同時であった。
すぐさま指令室に、男の力強い声が響き渡る。
「接敵確認!」
「その数13、既に相手も飛翔を開始しています」
オペレーターの報告に、トキハはすぐに檄を飛ばす。
「まずは掃討から。常に二機はバックで待機、隙があれば対フィールドバリアで『穴』を破壊して」
すぐさま指令室からヴェスレギオンたちに指令が飛ぶ。
ヴェスレギオンは無人機であり、島からの指示によって戦闘行動を行う。
指令室の意志は、すぐさま巨人たちへと伝達された。
陣形のもっとも後ろに居た二機が速度を落とし、対象に先行する四機が加速する。
四機は両手に装備した銃剣をアクティブにすると、まずは牽制の射撃を行う。
緑の荷電粒子が空を切り裂くと、無造作に空を浮かんでいたアンゲルスに突き刺さる。
敵の襲撃――それを感じ取ったアンゲルス達は声なき絶叫とともに口からビームを発射する。
ヴェスレギオンもまた、即座に対応する。
ある機体はバリアフィールドで、ある機体は飛行ユニットによる加速で攻撃を回避する。
――アンゲルスとヴェスレギオンには、明確な戦闘力の差がある。
整備が万全な状態であれば、まず一対一では負けない。
さらに、連携も出来る。
一機の白い巨人がバリアフィールドを張りながら前に飛び出す。
当然、迎撃するようにアンゲルスが殺到するが、残された機体たちは単純に迫りくる敵を確実に撃墜していく。
「敵勢力減少、3体の撃破を確認」
「よーし、そのまま! 待機していた二機を突入させて!」
「はっ!」
作戦は順調であった。
このまま敵を殲滅し、穴も破壊する――
銃剣からビームが放たれ、敵の陣営に直線の光を刻みつける。
それに沿うように、二機のヴェスレギオンがバリアフィールドを展開し、『穴』に向かって突撃する。
こうして、穴を破壊する。
それで、作戦は終わる筈であった――
異常は、指令室に響きわたるアラートから始まった。
即座に計器――アンゲルスによる世界の浸食度を観測していたスタッフが荒い声をあげる。
「浸食度数が急上昇!」
「こ、これは……」
戸惑う声に、トキハ激を飛ばす。
「報告を急いで」
「い、特異体です! マニュアルによる定義に従えば、特異体です!」
次に、モニターからの映像に異常が発生する。
二機のヴェスレギオンからの通信が途絶した。
代わりに、周辺で戦っていたヴェスレギオンの映像に、飛び散ったヴェスレギオンの機影がうつる。
――穴へ向かって突撃した二機が、蹴散らされていた。
トキハの表情が険しくなる。
メインモニターには、『穴』が映っている。
そこから――黒い、闇を濃縮したような球体が零れ落ちた。
「特異体……」
ムァンが呟いていた。
――忘れもしない、地球で何度も見た景色だった。
「ムァン、覚えてるわね」
トキハは、ムァンの返事を待たずに続ける。
「もちろんです。通常のアンゲルスとは異なる特性を持った個体。ある個体は体そのものが大きい。またある個体は、強固な皮膚をもっていた」
「そう、その何れも……手ごわい」
現に、目の前の特異体は映像越しでも異様な存在感を放っていた。
指令室は明らかに浮足立っていた。
トキハでさえも、思わず愚痴を漏らしていた。
「冗談でしょ……この世界に来てから、はじめてよ」
だが、敵は止まらない。
一瞬にしてヴェスレギオンを吹き飛ばし、世界へ顕現する。
そのまま空から海へと零れ落ちる。
異形の塊から、渦が発生する。球を中心とした穴が発生し、海水が吸い寄せられ――
そして、鎧のように海を纏う。
「海と一体化した?」
特異体は再び飛翔する。海水が尾をひき、長い軌跡をたどる。
「まるで海蛇……」
「まったくよ。これより、特異体をシーサーペントと呼称! 攻撃を開始!」
すぐさまヴェスレギオンが攻撃を開始する。
銃剣からビームが放たれり――だが、そのことごとくが海水によって阻まれ、アンゲルスに届かない。
特異体は反撃とばかりに直進をする。
当然、ヴェスレギオンは回避行動をとるが、回避しきれなった一機が被弾する。
「ダメージは?」
「ダメです、一撃で半身が持っていかれました!」
悲鳴なような報告が響き渡った。
「ダメね。まったく通じてない」
攻撃は通じない。
そして、敵の攻撃は通じる。
誰から見ても、圧倒的に不利な状況であった。
それを理解しているのか、海蛇は残ったヴェスレギオンを尻目に移動を開始する。
その行き先は――アマツシマであった。
「引き返せる?」
「ダメです、赤子体に邪魔されます」
「仕方ない、追加で一部隊出して!」
指令室の皆の顔に焦りが浮かぶ。それはトキハも例外ではなかった。
「いざとなったらオンリー・ワン・クラッシュも……」
喧々囂々とする指令室――その中で、ムァンは静かに考える。
(……迫ってくる……)
敵が迫って来る。
(あれがこの島に来る……)
そうなれば、どうなるだろう。
この島にある暮らしが、破壊されてしまう。
自分が育った街のように――そして、前世で救えなかった地球と同じように。
――ナナミたちも、死んでしまう――
(……うん)
だからこそ、ムァンは静かに決意をした。




