20.戦いの神
その堂々とした声を聞いた時、境内に渦巻いていた困惑の声は消えていた。
誰もが、一人の女性を見ている。
トキハ=アマタ。かつて地球を救うために戦ったパイロットは、今もまた、人々のために戦う戦士である――その凛々しい横顔が物語っていた。
――神様として祀られガラではない。
とは、本人が繰り返していたことである。
けれど、彼女を知る島の民は、口を揃えて言うだろう。
トキハ様こそ、私たちを守って来る島の守り神――戦の神である、と――
当の本人は、その評価を知ってか知らずか、当然のように危機に対処をする。
今も、共に戦う仲間たちに状況を確認する。
「ヴェスレギオンは?」
通信機越しの返事を確認すると、すぐに頷く。
「わかった、すぐに戻る」
そして、皆に振り返った。
皆を安心させる笑顔で、少しおどけた様子を見せて。
「みんな驚かせてごめんね。でも大丈夫、こんな時のためにアタシは神様をやってるんだ」
一同の顔を見渡して、普段と変わらない様子でそう告げた。
「シェルターで待っててね。すぐに終わらせるから」
集まっていた人々もまた頷くと、慌てることなく列を作って移動を開始する。
子供と怪我人を優先し、いざとなったら動ける大人は殿にする。
子供たちもまた、よく訓練されていた。押さず、駆けず、先導のメイドに従って進む。
その様子を確認すると、トキハも移動を開始する。
だが、その前にナナミが呼び止めた。
「トキハ様、こちらを」
いつも着ている白衣を、トキハの肩にかける。
「サンキュー」
白衣がマントのように翻る。颯爽と、堂々と、裏庭で待機しているヘリへと向かっていく。
「ムァンも行く……なんて、聞くだけ無駄だったわね」
「ええ、もちろんです」
ムァンもまた、トキハに続いてるいった。
「二人とも、遅くなったら差し入れもっていきますからね~」
ナナミが大きく手を振って、二人を見送っていた。
◆◆◆
ヘリに乗り込むとすぐに離陸をする。
遥か水平線の向こうに、白い巨影が飛んでいる。その先には、黒い穴が広がっている。
(……アンゲルス……)
ムァンは険しい顔をしながら、遠くの景色を睨みつけていた。
ヘリはすぐに島の裏側にまわると、デッキに着陸する。
整備班が慌ただしく駆けまわるデッキを抜け、基地内へ。
エレベーターを乗り継いで向かったのは、指令室であった。
トキハとムァンが指令室に入ると、既に室内の空気は戦場そのものになっていた。
全てのスタッフは着席し、今も状況の観測を行っている。
正面のメインモニターにはアンゲルスが出現する穴が映し出され、サブモニターには出撃しているヴェスレギオンからの映像が入って来る。
トキハはムァンを連れて前に進み出ると、メインモニターの下に立ち、皆に告げる。
「改めて、状況の報告をお願い」
すぐさま副官が反応する。
「アンゲルスはアマツシマより西300のポイントに出現。空に穴が開きましたが、数はまだ少数です。既にヴェスレギオン二部隊六機が展開しています」
「よろしい、そのまま続行」
そう言うと、トキハは指令席に座る。そして、ムァンに来るように言った。
ムァンは隣に立つと、じっとメインモニターを見据える。
まだ交戦には至っていない。けれど、接触は時間の問題であると言えた。
(私は……)
ここに居てもいいのか、そう、頭に過った。
それを見透かしたように、トキハは言う。
「ムァン、一応確認しておくけれど、今はまだあなたを出さない」
「今は、ですか」
そうよ、とトキハは短く肯定した。
「自由意思に任せるようなことを言った手前恥ずかしいけれど、いざとなったら頼る気よ」
「わかりました。私も、ヴェスキュリアスも承知しています」
元よりそのつもりである。
それがエテニアとしても答か、ムァンとしての答えかは未だに分からないが、『戦わなければいけない』状況があるということを、彼女は理解していた。




