17.ヴェスレギオン
トキハが運転する車は、海沿いの道をまわると島の反対側へと向かう。
向かう先は、ヴェスキュリアスが白い機動兵器に導かれて降り立った丘。そこの根元に基地の入り口があった。
(丘と森の下に、機械文明の基地……)
トキハが車を停めると、ムァンと一緒に中へと入る。
自動扉が開かれると、作業着を着た職員たちが挨拶をしてくる。
「トキハ様、今日はどのようなご用件で」
「ちょっと格納庫まで。ヴェスキュリアスは大人しくしてる?」
「はい、勝手に飛び出したのが嘘のように、じっとしています」
それを確認すると、トキハはムァンを伴って先へと進む。
「おい、あの小さい子――」
職員たちの声が小さく聞こえてくる。
ムァンは思わず耳を澄ましていると。
「――トキハ様の趣味か?」
「だろう。あの子も無理矢理着せられてかわいそうに……」
「でもまあ、島の幼女を勝手に連れて来るよりはマシか」
耳に届いた言葉に、余計なことをしたとムァンは後悔をした。
◆◆◆
トキハは職員たちに声をかけて進む。エレベーターを乗り継いで奥に進むと、大きな分厚い扉があった。
扉は重い音をたてて自動的に開くと、その先にあったのは機動兵器の格納庫。
ハンガーには白い機体が等間隔で並んでいた。
「この機体は?」
「ヴェスレギオン、ヴェスキュリアスの簡易量産モデルよ。
シンクロドライブとか対話型AIとか、余計なものを省いて自律起動を行う量産機よ」
ムァンは改めて機体を見る。
白い装甲の機動兵器。背面のユニットや装甲の一部が簡略化されているものの、凛々しい女性騎士のような顔立ちは確かにヴェスキュリアスと同じものだった。
「ヴェスキュリアスが動かないからね。アタシたちは新しく力を持つ必要があった。
で、ついでなら数も用意したいって、こんな形よ」
ずらりと並ぶ機動兵器たちは、確かな貫禄があった。
装甲は磨かれているものの、それを支えるハンガーには無数の傷がある。各々の傷がついている箇所が違う。長く、戦ってきた証である。
「この子たちが、世界を守っていたのですね」
「そうね、ま、ヴェスキュリアスには敵わないけど、そこらへのアンゲルス程度には負けはしないわよ」
ムァンはトキハに連れられながら奥へと進む。
ヴェスレギオンの前に立つ旅、小さく礼をして、せめてもの労いをする。それを、トキハやスタッフたちは微笑ましく眺めていた。
◆◆◆
やがて、一回り大きいハンガーについた。
そこには、ヴェスレギオンよりも一回り大きな機体――ヴェスキュリアスが待機していた。
「ヴェスキュリアス」
ムァンは思わず声を出す。
てこてこと駆け出すと、機体の前に立つ。
ヴェスキュリアスは何も言わない。ただ、静かにムァンを見下ろしていた。
「さて、ただここに来たわけじゃないわ。
ムァン、この子と戦って、気がついたことはある?」
トキハの問いかけに、ムァンは考え込む。
「気がついたこと……と言われましても、この体になったから乗ったのは二回だけです」
ただ、無我夢中で戦っていた。その中で、違和感を覚えるような時間はなかった。
「少しでもいい。リンクを行った時にノイズがあったとか、思うように動かせなかったとか」
「いえ、まるで自分の肉体が戻ってきたような気分でした」
事実、ムァンは事実上の初搭乗でありながら、機体を手足の如く動かしていた。
それは、前世の縁が為せるものなのか。事実は分からないが、ムァンはこの機体を動かせた。
「う~ん……」
今度はトキハが唸る番であった。
「そう言えば、対話型AIは目覚めてるの?」
「いいえ、私が乗った時は応答していません」
トキハにはエテニアが居た。
パイロットと脳波をリンクさせて動かすヴェスキュリアスは、機動に関する操作はほぼパイロットに委ねられる。
だが、肉体にない部分――スラスターや火器の管制などはAIが補助をするようになっていた。
それが、未だにムァンに対して呼びかけてこない。
「まだ、何か足りないのかな?」
トキハは一つ、考える。
「……ねえ、あなたの街の上空に、アンゲルスが出現したのよね」
「はい、間違いありません」
「……一度、行ってみた方がいいわね」
その言葉を聞いた時に、ムァンは手をあげた。
「あの、行くのなら、一つお願いがあります」
「なになに、美少女のお願いなら大歓迎よ……」
トキハはいつものように迫ってくるが、ムァンの顔はどこか晴れなかった。
「ごめん、そんな空気じゃないわね」
トキハのその予感は間違いではなかった。
ムァンから次の言葉を聞いた時、トキハもまた、顔に割り切れない感情を浮かべていたのだから。




