13.地球人、それから
――それじゃあ、始めましょうか。
トキハの語りは、エテニアが消えた時から始まった。
――ムァン、エテニアがとった行動は、アタシは今でも許してない。だけど、そのおかげで生きているのも事実だった。
オンリー・ワン・クラッシュ。たった一度の一撃は、確かにその一度だけで終わらせた。
ヴェスキュリアスの自爆によって僅かな猶予を得た後、地球圏脱出艇は、無事にアンゲルスの追跡から逃れることが出来た。
幸運なことに、アンゲルス達は地球の浸食を優先し、そこから逃げようとする人類を無理に追跡しようとは考えなかったようだ。
――とは言っても、困難は残っていたんだけどね。
脱出艇が目指したのは観測されている中で、地球に最も近い恒星、プロキシマ・ケンタウリ。それは光の速さで進んだところで4年はかかる距離にある。
脱出艇もまた、ヴェスキュリアスと同様にエーゲ海にある古代遺跡からの産物である。
復元物ではなく、宇宙船そのものが埋まっていたのを再利用しているのだ。
――今考えると、拾い物の宇宙船に命を預けるなんて、バカなことを考えたと思うわ。
とは言っても、それしか選択肢がなかったのも事実であった。当時の地球には太陽系の外を生き残った数千人の人類を抱えて飛び続けるだけの宇宙船はなかったし、建造している時間もない。何もかもが綱渡りであった。
――まあ、正直思い出したくもないことも沢山あったけど、概ね平和な旅だったと思う。
苦難の旅路であるが、その旅は、いくつもの幸運に支えられた。
生き残った人類は、命を繋ぐことに必死で、身内で争うようなこともしなかった。
船の循環システムは解析され、水と空気、として食料も十分に供給された。
それでも、長く続く旅で大小のトラブルはある。けれど、それも無事に乗り越え――
――地球から逃げ出して一年後。とある発見があった。
――旅の途中でも、船の解析は続けてた。
――あの日、グソウの爺ちゃんが興奮した様子で船を走り回ってたっけ。
『大変じゃ! 目的地が変わるかもしれん!!』
その言葉を聞いた時、トキハはついに老人が狂ったのかと勘違いした。
もちろん、船の皆も同じである。長い航海のストレスだとか、年齢のせいだとか、散々に言われたのだが、当の本人はすべて聞き流し――
『船の中央部に残された設備の解析が終わった。
あれは、『異世界との交信ならびに転移装置』じゃ!』
――現象だけを伝える。
人々は、中々受け入れることが出来なかった。
◆◆◆
脱出艇の中枢ユニットには、長らく用途不明の機械があった。
音声を出力する木管楽器のような部品。それ以外は何もかもが不明な、四角い物体。
その装置が突如動き出し、何者からの通信が入ったのだという。
船の中でもリーダー格の人物は即座に機械の前に集合すると、ただ推移を待つ。
最初に聞こえてきたのは、神々しさをまとった声であった。
『初めまして、私はあなた達とは異なる世界を見守る存在――言ってみれば、神と呼べるものです』
それは狂人の言葉そのものであったが、装置が稼働して瞬間に船の皆は認識を改めた。
突如出現した転送フィールドは脱出艇を包み込み、異なる世界――現在、トキハたちがいる世界へと転移したのだった。
周辺の環境も全てが人類の生存に適したモノ。水も空気も、そして太陽の光もある。
『実は、皆さまにお願いがあるのです。
この世界はまだ未熟故に、大きな脅威――アンゲルスが現れるようなら、一瞬にして崩壊してしまいます。
今は、守り手が必要なのです。あなた達には、それだけの力があると見込んでのことです』
神と名乗る存在からの提案は一つ。まだ文明が未発達の世界において、世界を守る力となって欲しいと言うことであった。
『もし了承していただけるのなら、この世界へあなた達を迎え入れましょう。
もちろん、拒否することは可能です。旅路の途中に、送り返しましょう』
さて、その提案は船の皆で協議された。
怪しい、というものももちろんいたが、それは少数であった。
既に長旅で疲れていた人類は、安息の地を求めていた。
仮に宇宙の旅を続けても、住処となる星は見つからないかもしれない、という不安もあった。
結果、大多数の賛成によって異世界へとの移民が決定した。
◆◆◆
――で、それからも色々と大変で。
神は契約の代償として、一部の人間に永遠の命を与えて戦い続けることを要求した。
言うならば、神に選ばれた戦士として、未来永劫と戦い続ける、という契約である。
もちろん、船の何人かはそれを受け入れる。
その内一人がトキハである。
――と、言う訳で百年経ってもピチピチってことよ。
トキハたちは孤島に入植をし、密かに力を蓄え続ける。
やがて、予言したようにアンゲルスは出現した――だが、トキハたちは神の期待に応えて見事に叩い続けた。
そして、長い時間が経ち。
「いま、ここにアタシたちがいるってワケ」
世界を越え、かつて少女だった女性は今も戦い続けている。
何の因果か、かつての相棒が転生した少女を前に、長い長い思い出話を語っている。




