10.遭遇、そして、再会
空から敵の気配が消えた――
遭遇した黒い異形、アンゲルスは全て撃退された。
しかし、ムァンはまだ油断できない。異なる存在と対峙していたからだ。
アンゲルスを穿ったビームの光。それを放った物体――白い鋼の巨人が飛翔する。
一体、二体――その数は六体。それぞれは等間隔を保ちながら立体的に広がっていく。規則だった動きで、白銀の巨人――ヴェスキュリアスを取り囲むように展開していた。
(誰が? 何故……いや、それよりも今はっ!)
ムァンは疲れ切った身体に鞭を打つと、操縦桿を握る。
だが、様子がおかしい。
ヴェスキュリアスとのリンクは継続している。だが、六枚の背面のユニットのうち、一層のビームと二層のバリアが沈黙していた。機体はスラスターの維持に集中し、空中でホバリングをしている。
「ヴェスキュリアス、戦う必要はないと言っているのですか?」
それを示すかのように、機体の出力が下がった。
ムァンもまた、操縦桿から手を離して深く息を吐く。
「……今、この空域にいるのは」
改めて、機体の前に出現した機体の確認をする。
進行方向から迫って来る白い機体の数は六。
白いボディに二枚の羽。大きさはヴェスキュリアスの半分ほどで、装備も全体的に簡略されている。頭部の意匠はヴェスキュリアスと同じツインアイであり、機体色や西洋鎧を着込んだ女性のようなシルエットはヴェスキュリアスと共通していた。
(まるで、ヴェスキュリアスを簡易化して量産したような……)
仮にヴェスキュリアスを量産可能モデルにしたら、目の前の機体のようになるのでは。ムァンはそう推測する。
そう、観測している間も、戦闘の気配はなかった。
六機の機体はムァンを取り囲むように展開するも、一定の距離をもって停止する。
腕には銃と思われる火器を装備しているが、その銃口を向けるような気配もない。
(向こうも警戒こそしているが、攻撃を開始する気配はない……)
静止し、にらみ合いのままホバリングを続ける。
ムァンもヴェスキュリアスも下手な動きはしない。仮に攻撃行動をとろうものなら、一斉に攻撃対象となることは火を見るよりも明らかであった。
(どうする……)
少女はもう一度息を吐くと、深呼吸をする。
肺の中に一気に空気が流れ込み、全身に酸素をおくる。
もう一度吐き出し、どうすればいいのか考える。
(ここで仮に戦いになり、消耗してどうする……アンゲルスとの戦いでもないのに……)
少なくとも、目の前の敵はアンゲルスではない。必ずしも排除すべき敵ではない。
それどころか、現在の状況においては、ムァンが異物である。
(自分が異物であるなら……少なくとも、交戦の意志はないと証明しないといけない)
そう決めると、ムァンはコンソールを操作する。
コマンドの階層もUIも、前世の記憶の中に在るものと相違ない。
その中で、『緊急回線』を選択する。
「こちら、ヴェスキュリアスのパイロットです。あなた達がアンゲルスでないのであれば、交戦の意志はありません」
返答はすぐに返ってきた。
『ヴェスキュリアスのパイロット、応答しなさい』
若い女性の声であった。
少なくとも、人が介在している。そう理解した時、ムァンもまた警戒を一つ解いた。
「こちらヴェスキュリアスのパイロット、ムァン、勝手な申し出であることは承知しておりますが、皆さんとの接触を許可してください。
この通り、私に交戦する意志はありません」
すると、声の相手はどこか砕けた調子になる。
『あーもうわかってる。埃被ってた機体が勝手に飛び出したから警戒してるだけ。
その気になればヴェスキュリアスならアタシたちを蹴散らすことが可能だもんね』
急に変わった態度に面食らいつつも、ムァンもまた警戒を解いていた。
「その、ありがとうございます」
ヴェスキュリアスを取り囲むように飛翔していた六機が動き出す。
進行方向にあった島へ向かって飛び始めた。
その速度は戦闘速度とは言えず、来訪者を案内するかのようであった。
『それじゃあ、ヴェスレギオンの先導に従ってもらうけど……」
「了解しました」
ムァンが返事をすると、通信から妙な唸り声が漏れた。
「何かありましたか?」
『いや、随分可愛らしい声をしてるけど……アンタ何歳? ちょっと顔見せてもらっていい?』
声には、どこかねっとりとした気配が混ざっている。
ムァンはどこか様子がおかしいと感じつつも、相手を安心させることも考えて応じることにした。
「りょ、了解です」
ムァンは通信に音声だけでなくコクピット内の映像をのせるように操作をする。
操作の完了と共に、通信先から黄色い悲鳴が聞こえてきた。
『うわ、銀髪銀目のロリがパイロットとか本当なの? アタシの好みドストライクなんだけど?
あーあーあー、ホント早く直接見たい! なによこれ!!』
――うわあ――
ドン引きの声を飲み込んだ。
突如興奮しだした通信先の相手に、思わず警戒の色が顔に出ていた。
『あ、そんな顔しないで。ほら、アタシの顔もそんな捨てたもんじゃないから』
慌てた声に機械の操作音が混じる。
暫くして、コンソールに映像が転送される。
それを見た瞬間、ムァンは自らの目を疑った。
通信先に居たのは、黒い髪の女性。けだるげな瞳をしたその顔に、覚えがあったのだから。
かつてのヴェスキュリアスのパイロット、トキハ=アマタそっくりだったのだ。
「……あなたは、まさかトキハ?」
思わず口に出した時、相手の顔も変わった。
『は? なんで私の名前を知ってるの?』
驚く女性を気にせず――気にする余裕もなく、ムァンは続ける。
「私はかつて、エテニアであった存在です。あなたと一緒に、地球で戦ったパイロット支援AIです」
通信の先の女性は、口を閉じるとじいっと目を凝らしていた。
それは、何かを確かめているようであった。




