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対巨大ケルベロス


バイオエレクトロニクス研究所 地下2階制御室


 「酸素飽和度、60よりさらに低下」

 「凍結させよう」

 「還流液の温度を下げて! 300秒で、マイナス80度」

 スタッフに指示を出した速水は、ヘッドセットを付けると輸送機の上田を呼び出した。

 「李依ちゃん、報瀬につないで!」

 速水の緊張した声に、上田は何も答えずすぐに報瀬に繋いだ。

 『何?』

 すぐに報瀬が出た。

 「0番機から降りていないの?」

 『うん、いつもと変わりないから』

 「息苦しさは?」

 『どうかな?』

 「コクピットの酸素飽和度が上がらないの。このままじゃ、細胞が壊死してしまう。だから組織を凍結させる。いいね」

 『うん、任せた』

 「任せた、って。あなたのことなんだよ。今はいいかもしれないけど。もしもオリジナルの組織が壊死してなくなってしまったら、その意識だって消えるかもしれないんだよ」

 『きっと、香織ねえさんもとうさんも、そしてスタッフのみんなも一生懸命やってくれてるよね。でも、もう、あたしはそこにはいない気がするから』

 「何言ってるの!」

 速水の急な大きな声に、制御室の全員が速水を見た。

 『ケルベロスが出る。これから戦闘が始まる』

 「なんとしてもあなたを守るから」

 『ありがとう。香織ねえさん・・・』

 無線はそこで切れた。





 索敵モニターの反応から数秒して、4機のNCBMの前に土砂や木々を吹き飛ばしながら巨大なケルベロスが地中から姿を現した。

 周囲を覆っていた木がなくなったことで、土煙が風に流されると一気に視界が開けた。

 「ほら、出てきたでしょ」

 報瀬はそう言いながらケルベロスとの距離を取るために後ろに下がった。水瀬がそれに追従する。

 ケルベロスはその巨体を報瀬の機体に向けた。

 「まずこっちで引き付けます」

 梅原はケルベロスの右に回り込みながら頭を目掛けてライフルを撃った。

 ケルベロスが一瞬梅原の機体を見た。しかし、すぐに視線の先を報瀬の機体に戻すと、その巨体をジャンプさせた。

 着地と同時に周囲に岩や木が飛び散り、衝撃波が広がった。

 ケルベロスの直撃を受けなくても、飛ばされた大きな岩が当たればそれなりのダメージを受けてしまう。報瀬はレールガンを抱えながらバーニアを使って通常よりも大きく回避していた。

 ケルベロスはその巨体からは考えられないようなスピードで報瀬を追った。

 「だめだ、レールガンを撃つための距離が取れない・・・」

 不意を突けば最初の1発くらいは撃てるだろうと考えていた報瀬の思惑が大きく外れた。

 「これなら市ノ瀬さんに特殊弾体を持って貰えばよかった」

 梅原はかなりケルベロスに接近してライフルを撃っていたが、それでもケルベロスは執拗に報瀬に迫った。

 「市ノ瀬さん、撃てそう?」

 「ダメです。動きが速すぎてこんなでかいレールガンじゃ追えません」

 ライフルならば確実に狙えても、重く長いレールガンで動く目標の一点に瞬時に狙いをつけるのは至難の技だった。

 ケルベロスは木々をなぎ倒しながら報瀬を追いかけ、時折爪で殴りかかった。

 報瀬はバーニアを使ってその攻撃を軽くかわすが、レールガンを構える余裕はなかった。

 高速で移動する報瀬の機体をバッテリーを背負った水瀬の機体が一定の距離を保ってついてゆく。

 ケルベロスは水瀬の機体を少しも気にかけることなく報瀬を追った。

 「それにしても、どうして報瀬さんばかり追いかけるの?」

 市ノ瀬がケルベロスの妙な動きに気付いた様子だった。

 「ケルベロスの目標が報瀬さんだから」

 「なんで?」

 梅原の言葉にすぐに市ノ瀬が疑問をぶつけた。

 「あのケルベロスはあたしのことが大嫌いなの。だからあたしを倒そうとしている」

 報瀬はそう言うと、バーニアを吹かしケルベロスの攻撃をかわした。

 「けど、ここまでしつこいとは思わなかった・・・」

 「なんで、なんで。どーして、報瀬さんが大嫌いなの?」

 「どーし・・なのか・・・・」

 市ノ瀬の問いかけに梅原が何か答えているようだったが、ケルベロスの爪が大地を叩きつけた衝撃音で報瀬には聞き取れなかった。

 「報瀬さん、輸送機からミサイル撃ってもらいましょう」

 少しでも流れが変わればと、水瀬が提案した。

 「上田さん、聞こえた?」

 すぐに報瀬が上田に確認をとった。

 


 「下からミサイル要請です」

 振り向く上田に古川はすぐに頷くと、藤代を見た。

 「藤代、ミサイル撃てるか」

 「はい」

 戦闘機の経験がある藤代は返事をすると、すぐに遠藤の横の火器管制の席に座った。

 「パネルは共通だ。わかるか」

 遠藤がケルベロスに機首を向けるために旋回を始めながら藤代に確認した。

 「大丈夫です」

 「ケルベロスの背中側から突っ込むぞ。ベルトをしっかり締めておけ」

 「了解」

 旋回を終えた輸送機は、ケルベロスの背に向けて機首を下げた。

 藤代が火器管制のパネルと照準用のスティックを手早く操作する。

 「発射のタイミングは任せる。下に伝えろ」

 「はい」

 「遠藤、ケルベロスの尾に注意だ」

 「了解」

 遠藤はケルベロスに向け輸送機を加速させた。

 「ミサイル発射。離れてください」

 藤代はスティックの発射スイッチを押した。

 機体の翼についた左右ミサイルポッドから1発ずつミサイルが飛び出すと、すぐに推力に点火され一気にケルベロスに向かった。

 遠藤はすかさず機首を上げると右に旋回させた。機体が軋みコクピットの全員にGがかかる。

 流れる視界の中、ケルベロスが爆炎に包まれた。

 「全弾撃つまで繰り返せ」

 「長野基地から通信です」

 パネルにしがみつきながらGに耐える上田が古川に通信を繋いだ。

 古川の前のモニターに篠原の顔が映った。

 「戦闘爆撃機を送った。指示は任せる。使ってくれ」

 「助かります」

 輸送機は再びケルベロスに機首を向け加速していた。

 「撃ちます。離れて!」

 放たれたミサイルがケルベロスの背に当たり爆炎が広がる。

 すると、旋回を始めた輸送機に目掛けて爆煙の中からケルベロスが飛び出して来た。

 遠藤はアフターバーナーを使い急旋回をかけた。

 コクピットの全員の体が、今まで感じたことのないようなGで引っ張られる。

 「きっつー・・・」

 パネルにしがみつく古手川から苦痛の声が漏れた。

 「よし、ケルベロスの注意がこちらに向いた。爆撃機が到着するまで繰り返せ」

 古川の言葉に、古手川と城山は青ざめた顔をお互いに向けた。



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