また、そしてまた・・・
和歌山県沖でのケルベロス出現から2日後。
日本周囲でのケルベロスの残存個体のないことが確認されたことにより、政府は緊急事態宣言の解除を国民に伝えようとした。
しかし、その発表直前に再びケルベロスが出現してしまった。今度は三重県の海岸線だった。
これにより日本政府は緊急事態宣言の継続を余儀なくされた。
軍のNCBM部隊はすぐさま三重県へと向かった。
「突然海岸に現れたのか?」
長野の基地を飛び立ったNCBM部隊指揮管制機内の笹村は統合軍本部のオペレーターに確認した。
「和歌山沖とは違い、おそらく海中を移動し海岸近くで浮上したようです。そのため、通常のレーダーに反応しなかったと思われます」
「今度のは潜るのか・・・」
海に潜ってしまっては、NCBMでは手が出せない。笹村は何か海中への攻撃方法がないか考えた。
「浮上したケルベロスが熊野灘海岸線に上陸したようです。前回と比べて今回の出現は小規模で、200ほどです」
上陸してくれたことはありがたかったが、そのまま町に向かっては被害が大きくなる。被害を最小限に食い止めるためにもできるだけ早く現場に到達しなくてはいけない。笹村は焦る気持ちを抑えた。
長く感じる移動時間を終え現場上空に差し掛かる。
上陸からすでに時間が経っている。過去のケルベロスの移動速度を考えると、かなり侵攻していると笹村は予測していた。
しかし、予想に反し、ケルベロスは海岸線をまだ移動中だった。
「1から7番、降下とともに攻撃を開始。これ以上奥に入れるな。8番から10番は上空にて海上のケルベロスを索敵」
笹村は指示を送ると、モニターに映る海岸に上がったケルベロスの動きを追った。
「なんだ? 以前のケルベロスに比べて動きがトロいな」
それはケルベロスを狙うNCBMのパイロット全員が感じていた。
そして交戦開始からわずか1時間ほどで、三重に出現したケルベロスはNCBM部隊によって全滅した。
三重でのケルベロスの襲撃から3日後。
「静岡県浜名湖上空にケルベロス出現。数150」
神奈川県統合軍作戦司令室のオペレーターが地図上に索敵マーカーを重ねた。
「上空? どういうことだ」
篠原がオペレーターに聞き返した。
「レーダーの反応は地上ではありません。明らかに空中です」
「近くの監視カメラの映像、拾いました。表示します」
オペレーターは浜名湖付近のお天気カメラへの進入権限を拝借し、モニターの表示をその映像に変えた。
上空を狙いズームする。
空中の黒い物体が拡大された。解像度の低い映像だったが、それはまさしくケルベロスだった。
「飛んでいるように見えるが、もっと拡大できるか?」
「お天気カメラではこれ以上無理です」
カメラは大きくブレながらケルベロスを追い続けた。
ケルベロスは両手足を広げるようにカメラに向かって飛んでいた。長い尾で時折バランスをとっているようにも見えた。
「あれは、羽・・・」
カメラに近づくことでやや大きく映されたケルベロスには、前足から後ろ足にかけて体の側面に薄い膜のようなものが観察された。どうやらこれによって滑空しているのだと篠原は考えた。
「海のケルベロスといい、どうなっているんだ」
篠原は戸惑いながらも、長野の笹村に緊急出動をかけた。
滋賀県山間部 NCBM独立遊撃部隊本部 格納庫
「あ、また出たみたいですね」
0番機のコクピットでデータ転送用端末を操作していた報瀬のヘッドセットに、統合本部からの緊急通信が割り込んできた。
「また出たって、なんだか幽霊みたいだね」
1番機のコクピットで同じように転送用端末を操作する大森が答えた。
「大森さん、これ上書きしちゃっていいんですか?」
「上書きで大丈夫」
新しいケルベロスの出現によってその情報が常に更新されていた。そのデータをそれぞれの機体にインストールしているのだ。
更新プログラムが動き出したのを確認する。あとは終わるのを待てばいい。
すると報瀬の携帯端末の呼び出し音が鳴った。
画面の表示は大学の同級生の高井真琴だった。
「はーい、報瀬です」
大学での報瀬に戻ったような口調で通信を始めた。
「報瀬、今どこ?」
「え? い、今は、えっと、バイト中」
思わず適当なことを言ってしまった。自分が独立遊撃部隊に関わっていることは、同級生たちは誰も知らない。
「バイト? こんな時に」
「あ、バイトっていうか、避難した人たちのお世話のボランティア」
「そんなんことやってるんだ。気をつけてね」
真琴は報瀬の適当な言い訳に全く疑いを持たず、そのまま話を続けた。
「この調子じゃ、海どころじゃなくなっちゃったね。今回のは一旦中止して、完全に落ち着いたらまた計画を練ろうってことでみんなにも連絡しておくね」
「うん、分かった。せっかく水着買ったのにね」
「まぁ、軍の部隊が簡単にやっつけてくれてるみたいだから、案外すぐに緊急事態宣言も解除になるかもね」
「だと、いいね」
「じゃぁ、また連絡するから。危ないことしないでね。じゃぁね」
「うん。ありがと。じゃぁ、また」
報瀬は通信が切れたあとも端末の画面をしばらく見ていた。
「そっか、こんなことになっていなければ、今頃海に行っていたんだ・・・」
そんなことを思い携帯端末をポケットに仕舞うと、データ転送用端末にインストール完了の表示が出た。
「0番機、終了・・・」
報瀬は端末のケーブルを抜くと、0番機のコクピットからリフトを使って下に降りた。
「軍の働きが良すぎて、またあたしたちの出番はなさそうですね」
報瀬は1番機から降りてきた大森に言った。
「まぁ、いいことだけどね。高校生を呼ぶ必要もないし」
「梅原君たち、どうして呼ばれないんだ、なんて怒ってないかな」
「ああ、梅原君はともかく、市ノ瀬さんは怒ってるかもね」
そうかも・・・、報瀬は頬を膨らませた市ノ瀬の顔を思い浮かべた。
静岡県浜名湖上空
上空からケルベロスが出現した現場に到着したNCBM部隊の全員が、地表に降りたケルベロスたちのおかしな行動に首を傾げていた。
「この間の潜水ケルベロスと言い、地上ではまともに動けないのか」
空中をスムーズに滑空していたケルベロスは、地上では降り立ったその場でぎこちなく蠢いているだけだった。
「地表に落ちたコウモリか・・・」
笹村はそう感じながら、攻撃開始の命令を出した。
そして今回も交戦開始からわずか1時間足らずで、空より降り立ったケルベロスはNCBM部隊によって全て消滅した。
これ以降も4、5日を開けて形態を変えたケルベロスが岐阜と富山に2度ほど出現したが、NCBM部隊によって簡単に壊滅させられていた。
しかしその後は、10日ほど経ってもケルベロスの新たな出現はなかった。




