イレギュラー
独立遊撃部隊本部
夕食を終えた報瀬は、格納庫の建屋上階にあるバルコニーにいた。
訓練場が見渡せるこのバルコニーは、遮るものがない空には煌く星々が見え、流れる風は心地よく、報瀬にとってお気に入りの場所になっていた。
時々、風に吹かれ木々の葉が擦れる音がする。やさしい音だった。
報瀬は空を見上げ、その中で一際目立つ星を見た。
その瞬間、報瀬はその星に手が届きそうな感覚を得た。しかし、すぐに報瀬の中の常識によって打ち消された。
子供じゃないんだから、届くわけない・・・、と。
それでもその星は、いや周囲の星全てが、思ったよりも近くにあるんじゃないかと思えた。
すると、ポケットに入れた携帯端末が振動した。
取り出し画面を見ると、『香織ねえさん』と表示されていた。
「はい、報瀬です」
『何してた?』
「何って、やることないから、ヒマしてたよ。てか、ずっとヒマ」
『まぁ、今回は全く出番がないものね』
「で、そんなヒマなあたしに何?」
『あのね、今回のケルベロスの出現について、報瀬の率直な意見が聞きたくって』
「何それ」
話が長くなりそうだと感じた報瀬は手すりにもたれるように腰を下ろした。
『軍の中では、また未来の人が仕掛けてきてるんじゃないのかって考えてる人がいるんだって』
「ああ、そう言うことか。篠原さんにでも聞いたの?」
『まぁ、そうだけど』
「デート中にそんなこと話しているんだ」
『外でそんなこと話さないよ』
「なら、どこで話すの?」
『あ、いや、まぁ、部屋とか・・・』
速水は言葉に詰まった。
「ま、いいや・・・」
報瀬はそれ以上速水に突っ込むことをやめ、話を戻した。
「今回のって、その数だったり能力だったり、なんだか残党の足掻きって感じがするんだよね」
『残党って、例の人たちの一部が残って仕掛けてるってこと?』
「ああ、それはないなぁ。あの人たちは、おそらく4人だったと思うけど、みんな帰ったはず。それにそんなことをやる人たちじゃない」
『そんなことわかるの?』
「うん、わかるよ。でも、これは個人の見解ってことだから、気にしないで。それより、考えても見てよ。もしもまた未来の人が仕掛けてるとしたら、それは2年前にあれだけ人類に大きなダメージを与えたにもかかわらず、その効果が出なかったからだよね。だったら、同じ時代に同じことをするかなぁ。あたしだったら、少なくとも時代を変えて試す。もしくはその方法を変える。戦略に長けた軍の人だったら、きっとそう考えると思うんだけどな。だから残党っていうのはケルベロス。消えるはずだったケルベロスがたまたま残ってしまった。つまりこれは、絶対にイレギュラーな事象」
『・・・そうだね。確かに、そう・・・』
タッチパネルに連続で触れる音がしている。どうやら速水は報瀬の話の記録を取っているようだった。
『これさ、報瀬の見解として篠原さんに伝えていいかな?』
「いいよ。でも、あとで報告書提出、ってのはやだよ。めんどくさいから」
『わかった。ありがと』
「篠原さんによろしくぅ・・・」
速水の照れたような笑い声がして、通信が切れた。
報瀬は端末をポケットに入れると、立ち上がり大きく背伸びをした。
夜空の星が目に入った。それはやっぱりなんだか手が届きそうだった。
きちんと始末していってくれればいいのに・・・。
ケルベロスが現れたと聞いた時、報瀬は真っ先にアイナのことを考えた。
あれだけしつこいヒトだ。ひょっとしたら、またこの時代にやってきたのではないかと。
しかし、ケルベロスが出現するたびに考えれば考えるほど、それはないな、と言う結論が確かなものとなった。
人が考えてやっているには、出てくるケルベロスはあまりに稚拙すぎる。きっとあの人ならもっと効果的な手段を取っているはずだ、と。




