3番機
バイオエレクトロニクス研究所 無菌格納庫
全ての電気系、神経系の接合が終わり、少し遅めの夕食休憩の後、全員での筋肉の接合が始まった。
距離をとって置かれていた頭部、胴、そして四肢は関節が合わさったことによりその距離を詰め、3番機としての形を取り始めていた。
しかし、接合が進むにつれ、接合箇所つまり術野は狭くなる。生体接着剤の最も使いにくい工程だった。
水瀬は狭い術野を開創器で広げ、小型のペン状の生体接着剤を使い右肩部の筋肉繊維の接合を行っていた。
通常機体であれば、大まかに生体接着剤を付ければ組織が勝手に繋いでくれるが、独立遊撃部隊の特殊機体に関してはそれではダメだった。細かな神経走行に合わせて筋肉も細かな接合をしなければ、本来の能力が発揮できなくなってしまうのだ。
水瀬は何度もこの術式を行なってきた。接合の正確さにもそのスピードにも自信もあった。しかし、いつまで経っても大森のスピードに追いつくことは出来なかった。
「生体接着剤でそのスピードは大したものだぞ」
後ろで急に声がして、水瀬は驚くように振り返った。
そこには術野を覗き込む井桁の姿があった。
「でも、大森先輩みたいになかなか速く出来なくって・・・」
水瀬は苦笑いの表情を向けた。
「大森は接着剤と縫合を使い分けてるからな。場所によっては糸と針の方が速かったりする」
水瀬は大森が時々把針器を使っていたことを思い出した。
「水瀬先生も、こっちの方が速いと言ってはよく把針器を使っていたよ。外科で散々やってきたことだからかもしれないね」
水瀬は、小さい頃にリビングの机の上によく置いてあった小さな台のことを思い出した。
それにはいくつも糸が結んであり、糸の集合体のようだった。
『気持ち悪いからどけて』と言うと、父親は『ゴメン』と謝りながらも、『毎日やらないと指の動きが鈍るからな』と言っていた。
「慧ちゃんも医学部に行くんだろ。そこでしっかりと覚えられるよ」
井桁はそう言って笑うと、進行状況の見回りのためにその場を離れた。
水瀬はNCBMの肩の間から首を伸ばすと、左肩で処置をする大森を見た。
やはり大森は、ペン型の接着剤と把針器とを時折持ち替えながら接合を行っていた。
以前と比べたらかなり性能の上がった生体接着剤があるのに今更糸と針なんて、と思っていた水瀬だったが、この作戦が終わったら大森に把針器の使い方を教えてもらおうと思った。
そして日にちが変わり外が白み始める頃、筋肉及び皮膚の接合が全て終了した。
すぐに機体がクレーンでハンガーに固定されると、続けてコクピットの挿入が行われた。
その後、全身の装甲が装着され、昼少し前に3番機が完成した。
「お疲れ。よくやった」
全員が3番機の足元で力が抜けたように座り込んだ。
「お疲れ様でした」
無菌が解除された格納庫へ小型のクーラーボックスを持った速水が入ってきた。
「お疲れのとこ悪いけど、水瀬さんはコクピットに入って。神経接続をした状態で神経伸長をやるから」
「すごい。慧ちゃんの専用機体だね」
速水の言っている意味を素早く理解した大森が驚きの声を出した。
水瀬は少し照れるようにリフトに行くと、速水と一緒にコクピットに上がった。
下で『どう言うことですか?』と聞く声が聞こえた。
「じゃぁ、システムを起動して」
コクピットのシートに座った水瀬に速水が指示を出した。
起動スイッチに触れると、足元からモニターがせり上がってきて全周囲モニターに格納庫内が映し出された。
「ちょっとごめんね・・・」
速水は水瀬の横からシート前のモニターを覗きこむように体を向けると、タッチパネルを操作した。
「コクピットへの接続率100%オーバー。けど、コクピットからの操作率83%・・・」
「あの・・・、あたしのレベルが落ちたってことですか?」
操作率が83%とと言う数字を見て水瀬は少しがっかりした様子だった。
「違う違う。つながっていない末梢の神経があるから、それをシステムが示しているだけ。今からそれをつなげるから」
速水は衝撃吸収アームが固定されている場所にある神経用メンテナンスホールを開いた。そこには、電気用とは明らかに異なるいくつかのコネクターがあった。
次に速水は持って来たクーラーボックスから20cc用の注射器を取り出すと、コネクターの一つに繋いだ。そして、ゆっくりと全てを注入した。
「じゃぁ、わたしは降りるから、しばらくそのままでいてね」
「はい」
速水は注射器を外すとメンテナンスホールを閉じ、水瀬に軽く手を振りながらリフトで下に降りて行った。
水瀬の何が起こるのだろうかと言う不安の目に、操作率の数字が少しずつ上がっていくのが映っていた。
やがて、機体は水瀬の全てを受け入れた。
こうして、独立遊撃部隊NCBM3番機、水瀬慧専用機体が誕生した。
それから2日して、3番機とともに二本のレールガンが独立遊撃部隊本部に届けられた。




