ジュース
バイオエレクトロニクス研究所 無菌格納庫
「ああ、ダメだ。もう我慢できない。一旦離れます」
脚での処置を終えた古手川が、このタイミングを逃すまいと格納庫隣の準備室へと向かった。
防護服を一度着ると、脱いでまた新しいのを着るにはとても手間がかかる。そのため、ついつい排泄を我慢してしまうのだ。しかし、限界がくれば我慢することもできなくなる。
「まだ、先は長い、ここで全員休憩をとろう」
井桁が皆に声をかけた。
排泄を我慢していれば自ずと集中力に欠けるようになる。
「モニターに異常がないか確認してから、離れてくださいね」
大森が全員に確認を促した。
その後、隣の準備室で各々防護服を脱ぐ。防護服は多少の空調が効くものの、中に着ているタンクトップは汗で濡れていた。
準備室のエアコンが心地よい。
水瀬が用意してあったクーラーボックスを持ち出した。
「あ、わたしがやります」
タオルを首にかけた藤代がすぐに気付き、クーラーボックスから冷えた缶ジュース取り出した。
「ああ、もう、喉がカラカラだぁ」
戻ってきた古手川が缶ジュースを取ろうとしたところで急に手を止めた。
「・・・、でも、これ飲んじゃうと、またトイレに行きたくなるかなぁ・・・」
「ダメだよ、ちゃんと飲まないと。脱水気味になってるから、場合によっては防護服の中で熱中症になるよ。糖分も必要だしね」
大森はそう言うと、手にしたジュースを勢いよく飲んだ。
「まぁ、お医者さんの言うことは、ちゃんと聞くものだ」
井桁が笑いながら言うと、ジュースを手にした。
全員がジュースを飲み、一息ついた。
「もう一度休憩をはさんだその次あたりで電気系統と神経の接続が終わるだろう。そのあと食事をとって、一気に筋肉と皮膚の接合だ」
時計を見ながら井桁が言った。
皆が時間を確認するように時計に目をやると、大きく頷いた。
「各自、問題となるようなところはないな」
「ありません」
全員が同じ返事をした。
「じゃぁ、排泄を済まして始めよう」
古手川を残して、皆が準備室を出て行った。
それを見ていた古手川は不安そうな表情で、もう一回行く・・・、と慌てて準備室を出て行った。
独立遊撃部隊本部 食堂
報瀬、そして梅原と市ノ瀬は、昼食をとったあとそのまま食堂の隅で作戦会議と称して話し合いをしていた。
食後に飲んでいたオレンジジュースのグラスはすでに空になっており、氷だけがわずかに残っていた。
「レールガンの組み合わせは、あたしと慧ちゃん、梅原君と市ノ瀬さんでいいね」
報瀬がテーブルに置いた端末タブレットに、ペンでサラサラとそれぞれの名前を記入した。
「レールガンを持つのは、報瀬さんとあたしでいいですね」
市ノ瀬に二人が頷き、報瀬が自分と市ノ瀬の名前の前に『R』と付け加えた。
「ふたりが巣から持ち帰った塊に関して、長野基地から連絡が来たみたい」
地下から持ち帰ったケルベロスの巣の構造体が、レールガンの弾体として使用出来ないか梅原が提案していた。
「レールガンの弾体は電気を通すものじゃないと使えないんだけど、残念なことに塊は電気を通さないんだって。でも、塊を金属でコーティングすることによって使用可能になるかもしれないって。まぁ、1発だけど」
報瀬はタブレットに『特殊弾体』と記入した。
「じゃぁ、それをどっちがいつ使うかですね」
梅原はタブレットのペアになった名前を見比べた。
「一番うまく当てられるのは報瀬さんだから、特殊弾体は報瀬さん担当でいいんじゃない」
市ノ瀬が言うと、梅原が頷いた。
「わかった。あたしが担当する。次はいつ撃つか。特殊弾体を先に使うか、もしくは通常弾体で脆くしておいて特殊弾体を使うか・・・」
「この前の感じだと、1発当てたあとかなり暴れましたよね。2発目以降は狙いにくくなるかもしれませんよ」
そう言って梅原はグラスに残った最後の氷を口に入れた。
「なら、1発目で狙ったほうがいいね」
市ノ瀬もグラスを口に運んだが、すでに氷はなかった。
「それで致命傷を与えることが出来ればいいけど、無理ならどのみち暴れる状態で狙わなきゃいけないか・・・」
3人は考え込んだ。
「おかわり持ってきたよ」
不意に声がした。3人が顔を上げると、オレンジジュースをトレーにのせた食堂のおばさんだった。
「いつになく真剣な話をしてるみたいだったから、喉が乾いただろうと思って持ってきたよ」
そう言いながら、ジュースの入ったグラスを置くと、代わりに空になったグラスをトレーにのせた。
「ありがとうございます」
3人が笑顔でお礼を言うと、頑張ってね、とおばさんはその場を離れた。
市ノ瀬はすぐにグラスを持つとストローで一気に半分を飲んだ。
報瀬と梅原もグラスを手に取り、考えながらゆっくりとストローを吸った。
ケルベロスの硬い被毛を撃ち抜くには、皮膚に対して垂直に当てなければ跳ね返されてしまう可能性が高い。また、1発で貫通出来なければ、同じ位置に再び命中させなくてはいけない。
1発目は、ケルベロスの注意を逸らしておけばなんとかなるだろう。しかし、問題は2発目以降だ。いくら巨体とはいえ、激しく動き回る状態で一点を狙うのは、たとえ報瀬でも至難の技と言えた。
3人の作戦会議は、オレンジジュースがなくなり、さらに氷がなくなる頃まで続いた。




