おにぎり
本編の続きです
「どこ? ここ・・・」
報瀬は1番機のコクピットで、シートに座る梅原の横から手を伸ばしモニターのタッチパネルを操作していた。
全周囲モニターには鬱蒼と繁る木々が見え、すぐ横には0番機の機体があった。
「あ、位置情報取得出来た・・・。山形だって」
報瀬はモニターから梅原に視線を移した。
「元の世界に戻れたってことでしょうか」
梅原は信じられない様子だった。
「位置情報が取れるってことは、戻れたってことだね。でもどれだけ時間が経過してるかはわからない。みんなおじさんやおばさんになってるかも」
「そうだったら、ちょっと笑える・・・」
そこで梅原がやっと笑顔を見せた。
「無線、通じるかな。あたしは0番機に戻るね」
報瀬は自分の機体を1番機に近づけた。
「開けて」
梅原はコクピットのハッチを開けた。
「あの・・・、おまじない効きましたね」
「だね」
報瀬はちょっと赤くなった顔を梅原に向けたあと、ヘルメットを拾い0番機のコクピットへ飛び移った。
報瀬が自分のコクピットに戻りヘルメットをつけると同時に無線が鳴った。
『こちら独立遊撃部隊。0番機と1番機の識別信号を確認したんだけど、二人とも無事?』
少し疲れた感じの上田の声だった。
「報瀬です。無事です」
「僕も無事です」
すぐに二人が応えた。
『よかったぁ・・・』
上田の声は涙声に変わった。
「そっちは輸送機からですか?」
上田の声に混ざって、古川が指揮をとる声が聞こえた。
『そう、ずっと二人を探しているところに、ケルベロスが突然現れたの』
報瀬の顔が曇った。
『ちょうど地上にいた市ノ瀬さんの2番機と出くわしちゃって。でもね、不思議なことに2番機を見た途端に地下に潜って、そのまま索敵レーダーから消えちゃったの』
ケルベロスがいたってことは、おまじないが効きすぎちゃったか・・・。報瀬は苦笑いをした。
すぐに上田が古川とやりとりしている声が無線の奥で聞こえた。
『2番機を回収後、すぐにそっちに向かうってことだから、もう少し待ってね。あ、そうだ。栄養パックの残量は大丈夫?』
報瀬はすぐにモニターを確認した。
「3%です。このまま寝ていれば、大丈夫です」
「僕は4%です。僕も寝ることにします」
そう言った後、二人の笑い声が聞こえた。
機体を動かさずじっとしていれば、輸送機が到着するまでは十分保ちそうだった。
『到着後、すぐに交換できるように準備しておくからね』
上田は二人の笑い声に安心した。
「了解」
「分かりました」
そこでいつもの調子に戻った上田からの通信が終わった。
「余分なものまで連れてきちゃったみたいだね」
報瀬が梅原に無線を送った。
「ですね・・・」
あの空間が消滅するときに、一緒に消えるのではなく押し出されてしまったのだろうと報瀬は考えた。
だとしても、ケルベロスが逃げ込む空間はもうない。次はホームで戦える・・・。
独立遊撃部隊輸送機 格納庫
格納庫に戻った2番機がハンガーに固定されると、すぐに水瀬がリフトでコクピットに上がってきた。
コクピットのハッチが開く。中からはハッチが完全に開くのを待ちきれないように市ノ瀬が飛び出してきた。
「よかったですね」
水瀬が声をかけた。
「うん。ありがとう」
梅原と報瀬がこの世界に戻ったことは、市ノ瀬にも無線で知らされていた。
「あとはやっておきますから、お迎えの準備でもしてください」
「うん・・・」
市ノ瀬は涙を浮かべながらリフトに乗った。
「あ、忘れ物です。これ持って行かないと」
水瀬はそう言いながらコクピットのシートにかかったショルダーバッグを手にした。
リフトを動かそうとした市ノ瀬がハッとするように振り返った。
「おにぎり潰れちゃってますから、もう一度作ってあげたほうがいいですよ」
「見たの」
「ええ、ずっとシートに掛かったままでしたから」
市ノ瀬は顔を真っ赤にして、バッグを水瀬から奪うように取り上げた。
「潰れたんじゃないから・・・」
怒ったように呟くと、そのままリフトを下げた。
コクピットに残った水瀬は、潰れたんじゃなければ、どーいうこと?と首を傾げた。




