~報瀬編2~ 発動
2086年11月5日 神奈川県 国防省統合軍参謀本部 本部長室
本部長室のソファーでは、大川平蔵と野嶋高雄が壊滅状態となっていた海外の状況の最終的な報告書について話をしていた。
一通りの話が終わったところで、大川はテーブルのコーヒーをとると一息つくようにゆっくりと口に運んだ。
「あ、そうだ」
大川はすぐにコーヒーカップを置くと野嶋を見た。
「研究所も独立遊撃部隊も現体制のまま存続させるつもりだ。引き続き頼む。それと、おそらく君には新たにやりたいことがあるのだろう」
「お分かりでしたか」
「部外秘とは言え、先日の戦闘記録を見れば誰もがその可能性を疑わないだろう。ましてや父親ならな」
野嶋に向ける大川の目は、今までになく優しかった。
「実は、大川本部長にそのことでお話があるのです」
野嶋が本日ここを訪れたのはこのためでもあった。
野嶋はカバンから端末タブレットを取り出すと、『final sequence』と名前のついたファイルを開いた。
そして、説明を始めた。
大川はその可能性をNCBMの戦闘記録からすでに推察していたが、実際に水瀬の残したファイルの中身の説明を受けるうちに徐々に驚きを隠せなくなった。
「わたしはそれにはまだ時間が必要だと思っていたのだが、すでに実現可能だというのか」
「はい。水瀬君はここまで道を開いてくれていたようです。わたしも驚きました」
大川はじっとタブレットの画面を見ていた。考えをまとめている様子だった。
そしてゆっくりと野嶋に視線を移した。
「わたしは軍の人間として、軍の立場から意見を言わせてもらう。それは報瀬君の人権を無視することになるかも知れないが、気を悪くしないで聞いてもらいたい」
野嶋は嫌な顔をせずにうなずいた。
「もしも、報瀬君でこのことが実現すれば、その技術は日本において最重要レベルのものだ。軍はその技術を何よりも優先して守らなくてはいけない。そしてその技術で生まれた報瀬君を、さらにNCBMのパイロットとしても確実に軍で確保しなくてはいけないし、守らなくてはならない。そのためには惜しみなく予算を注ぎ込むだろう。なぜなら、使い方によっては、核を凌ぐほどの兵器になりうるからだ」
野嶋は大川がこう言うであろうことはある程度わかっていた。
大川は野嶋を見る表情を少し緩めた。
「しかし、自分の娘がそんな扱いを受けるのは、いいものではないだろうな・・・」
「報瀬が必要とされるのは、とてもありがたいことです」
野嶋はそう言うと深く頭を下げた。
報瀬は、自分がこうなることがわかっていたのだろうな・・・、野嶋はふとそんなことを思った。
2087年1月17日 バイオエレクトロニクス研究所 地下培養室
「まぁ、喋りたくなければ黙ったままでもいいので、わたしの話を聞いてくれるか」
野嶋は『2』の刻印のあるコクピットのシートに座り、報瀬に話しかけた。
「すべての検証が終わった。確実にお前の体を創ることが出来るだろう。水瀬君のおかげだ」
野嶋は報瀬がすぐ隣に座っているように感じた。
「速水君とも話した。予算のことを心配しているのだろうが、そんなことを娘に心配させるなんて父親失格だな。だが、それは問題ない。お前が気を病むことではない。それと、お前が軍に残ることが嫌でないのなら、わたしは全く構わない。お前がいてくれるだけで十分だからだ」
その時、還流液を循環させているポンプの音が少し高くなった。
「ありがとう・・・。とうさんに、かえって心配かけちゃったね」
久しぶりの声が聞こえた。
「あたしも、とうさんのそばにいたいよ・・・」
野嶋はすぐにでも報瀬を抱きしめたかった。でも、それはできない。
「本当に、いいのか?」
「とうさんだって、ほんとにいいの?」
二人の答えは決まっていた。
その後、野嶋は培養室を出ると、速水のオフィスへと向かった。
そしてそこで、『final sequence』の開始を告げた。




