~報瀬編2~ 報瀬の気持ち
2086年10月23日 バイオエレクトロニクス研究所 地下培養室
ふたつのコクピットが置かれている培養室には、還流液を循環させるポンプの音が小さく響いていた。
ロックが解除される音がしてドアが開くと、速水が入ってきた。
速水はポンプの微妙な音の変化に気付いた。
そして、2と刻印されたコクピットに入りシートに座った。
「起きてるんでしょ」
「バレたか・・・」
その声は、報瀬がすぐ横にいるような感覚で速水の頭に入ってきた。
「報瀬のことだから、状況は全部わかってるでしょ。どうして何も言わないの?」
「どうしてって、ファイルのこと?」
「そう」
「あれはね、初めて目が覚めて輸送機に乗る前、情報をかき集めているときに気づいてた。こんなこと出来るんだ、って。機体を動かすみたいに、あたしの意識がその体の中に入るってことだよね。このコクピットとの距離の問題があるけど、それが解決できれば普通に暮らせる」
「それは所長に言ったの?」
そこで報瀬は黙ってしまった。
しんとなった室内には、ポンプの音だけが聞こえる。
「おとうさんに心配かけたくないってこと?」
まだ、報瀬は黙っていた。しかし、何か言葉を選んでいるようにも思えた。
「あのね・・・」
報瀬の感覚が再び速水の頭に入ってきた。
「はじめてNCBMに乗ってケルベロスと戦ったあと、徐々に意識が薄れていって、あたしはこのまま完全に死んじゃうんだな、って思った。でも、ちゃんと自由に動けるって夢が叶ったし、とうさんもNCBMが動いたことで夢が叶ったわけだから、死んじゃっても十分満足だった」
速水はコクピットのシートに体を預け、目を閉じて聞いていた。
「けど、あたしはまた目を覚ますことが出来た。その時、水瀬先生が残したファイルのことを思い出しちゃったんだよね。また少し期待した・・・。でもね、あたしはずっとこのコクピットなんだから、このコクピットが存続する限りその責任はとうさんにかかってくる。維持する費用とかも含めてね」
「バカだなぁ。そんなことまで心配しなくていいのに。親は子供のためならなんでもするよ。それに、大川さんだって、篠原さんだって、当然わたしも報瀬のために動くよ」
「でもね。いずれは自分の力で生きていかなきゃいけない。NCBMのパイロットとして軍に残ることも考えたよ。NCBMに乗ったら、誰にも負けないから。でも、とうさんはあたしが軍にいることを望むかな。きっとイヤじゃないかな。それとは別に、軍にいてもいなくても、あたしの存在って国家の最高機密なんじゃないのかな。自分の娘がそんな状態じゃ扱いにも困るよね」
速水は報瀬のため息が聞こえたような気がした。
「そんなことまで考えてたんだ・・・。だったら、ちゃんと話せばいいのに」
「なんだかね、照れ臭くって話しにくいんだよね」
「まぁ、そうだよね。そんな年頃だ」
報瀬の小さな笑い声が聞こえた。
「わたしがそれとなく野嶋所長に聞いてみるよ」
「うん・・・」
味方はたくさんいる。なんとかなるだろう・・・。速水はそう楽観することにした。




