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~報瀬編2~ 一人の女性


2086年9月10日 バイオエレクトロニクス研究所 速水香織オフィス


 「じゃぁ、今度の機体は3機ってことですか?」

 上田李依はパソコンの前に座り、そのフォルダに詰め込まれた膨大な量のファイルを見ていた。

 それは水瀬吾郎が残したNCBMの設計に関する資料だった。設計のフォルダーの横には、『final sequence』フォルダもあった。

 「そう、3機造りたいね。今までの戦闘データから、出来れば各パイロットの専用機体になるように」

 デスクに腰を預けながらコーヒーカップを手にする速水が言った。

 「でも、コクピットが足らないですよね」

 「それは説得するから」

 「分かりました。あたしはまず、3人の戦闘データの解析から始めますね」

 「もうすぐ山内君が長野から戻ってくるはずだから、一緒に始めるといいよ」

 「先輩はこのフォルダの検証ですか?」

 上田は『final sequence』フォルダの上でカーソルをグルグル回した。

 「そう。だからそっちはよろししくね」

 「了解しました。これ、コピーとっていいですか」

 「いいよ。機密扱いになってるから、ちょっと時間がかかるかも」

 上田はあらかじめ用意していたメモリーチップを取り出すと速水のパソコンに接続した。





2086年10月15日 速水香織のマンション


 篠原は速水との夜の食事の後、車で送って速水のマンションに来ていた。

 最近は駐車場で速水を下ろすだけでなく、少しだけ部屋に入るようになっていた。

 「たまにはお酒飲みます?」

 リビングのソファーに少し落ち着かない様子で座る篠原に、速水が悪戯っぽい笑顔を向けた。

 「いや、いや、さすがに車だから」

 篠原はすぐに断った。

 「なんだ。泊まっていけばいいのに・・・」

 速水は篠原に聞こえるくらいの小さな声で言うと、コーヒーの用意を始めた。

 しばらくして、部屋にコーヒーの香りが広がった。

 「どうぞ」

 速水はテーブルにコーヒーを置くと、篠原に向かい合って座った。

 そして帰りの車の中で話していた『final sequence』に関する話の続きを始めた。

 「相変わらず、報瀬は何も言わないんだよね」

 速水はコーヒーを口にした。

 「本当に報瀬君は予算のことを心配してるのかな」

 篠原がカップを手にしたまま聞いた。

 「だって、コクピットを維持するのって膨大な費用が必要でしょ」

 「まぁ、確かに個人としては膨大な金額だが、NCBM1機分以下だろ。軍にしたら問題ない金額だ」

 「そりゃ、そうだけど。一人の女性にそんな費用を使えるかな」

 「大川本部長は問題ないだろう。報瀬君はそれなりのことをしてくれた人物だからな。十分な理由になる。しかし、時間が経てば文句を言う奴が現れてもおかしくはない。それにもしもトップが変わるようなことがあれば状況は変化する」

 「トップは篠原さんが受け継げばいいでしょ」

 「おいおい、そんな簡単にはいかない・・・」

 篠原はカップをテーブルに置くと報瀬にお金をかけ続ける理由を探した。速水はその邪魔をしないように動きを止めた。

 「・・・報瀬君は誰よりも上手くNCBMを動かすことが出来るはずだな」

 「そうだね。誰よりもっていうのは間違いない」

 「なら、パイロットとしてなら、全く問題はない。むしろ軍にしたら確保したいはずだ。最も、一人の女性となった報瀬君が軍に残ってくれればの話だが」

 「確かに、それが一番いい方法だね」

 速水は、すでに報瀬もその事は頭にあるのではないかと思った。

 それでも自分から言い出さない理由は・・・。

 野嶋所長だから話せないこと?

 やっぱり報瀬の気持ちはわからなかった。

 直接聞いてみるしかないか・・・。

 速水は報瀬のコクピットに入ってみようと思った。



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