~報瀬編2~ 戦いが終わって
報瀬編2
時は少し遡り、九州最終決戦直後のお話です。
九州シャフトでの戦いから数日後・・・。
2086年8月26日 バイオエレクトロニクス研究所
実験棟地下大型格納庫には、2機のNCBMが大型ストレッチャーに仰向けに固定されていた。
1機は、左腕がなく、左足は膝から先が大きく捻れていた。
もう1機は頭部がなかった。
2機とも全身の装甲は激しく傷付き、土埃と混ざった還流液で汚れていた。
焼き付いた関節に触れて焦げ付いた還流液の匂いが、いまだに格納庫内を漂っていた。
2機はシャフトからの脱出後、コクピット保護のためにすぐに研究所に搬送された。
幸いなことに現場での処置が早かったおかげで、コクピットの神経組織に損傷は全く見られなかった。
研究所に到着後、十分な還流が開始され、傷付いた機体の維持もかろうじて行われていた。
「よくこんな状態で戻ってこれたものだな」
格納庫上のコントロールルームで、野嶋は2つの機体を見下ろしながら呟いた。
「本当に、すごいですね。3人のパイロットは」
横にいる速水は、あえて『3人』と言った。
「まだ眠っているのか」
「はい。きっと疲れたんだと思いますよ」
「機体はコクピット摘出後、廃棄。新しく設計し直そう」
「分かりました」
2086年8月30日 バイオエレクトロニクス研究所 所長室
速水はいつものようにコーヒーを二人分トレーの乗せ持ってくると、ひとつを野嶋のデスクにおいた。
「あれから、話されたんですか?」
速水はそう言うと、自分のコーヒーを持ってソファーに座った。
「ああ、本当に横にいるようだった。不思議な感覚だったがとても懐かしく感じた」
「よかった・・・」
そこで速水はテーブルの隅にメモリーチップのケースが置いてあることに気付いた。
「これは?」
「ああ、君に渡すものだ」
速水はケースを手に取ると蓋を開けた。中に収められたメモリーチップには『複製』と書かれてあった。どこかにオリジナルが存在するのだろう。
「それは、最初の報瀬の機体から回収したコクピットのストレージに入っていたものだ。ストレージを解析していた山内君が見つけた。君に内容を見てもらい、その後に率直な意見を聞かせてもらいたい」
「はい・・・」
この場で野嶋がこの内容を見せないのは、見た後に考える時間を与えるためだろう。
速水は、手にしたこの小さなメモリーチップに、とんでもなく大きなものが入っているような気がした。
その夜。速水は自室のパソコンで野嶋から受け取ったメモリーチップを開いた。
そこには、『final sequence』と名前のついたフォルダがあった。
中を確認する。
何かのプログラムだ。
内容を目で追うごとに、速水の表情が驚きのものに変わっていった。
夢中になって読み進める。全てを見るまでに多くの時間は必要なかった。
「これを機体のストレージに入れてたなんて・・・」
速水はそのプログラムが報瀬の機体に残されていた意味を思った。
「このプログラムを使えば、脳を除く人間の全ての組織が複製できる。つまり、人が造れる・・・」
その理由は一つしかなかった。
「これは、まさしくあの子のために水瀬先生が残したもの・・・」




