市ノ瀬と水瀬
独立遊撃部隊本部 格納庫
水瀬は1機だけになった2番機のコクピットでシステムのメンテナンスを行なっていた。
二人の救助のために、急な出撃命令が出ても慌てずに済むようにとの思いだった。
こうすることで、多少は気を紛らわすことができた。
すると、リフトの動く音がし、少しして誰かがコクピットへ上がる気配がした。
水瀬が振り返ると、ヘルメットとショルダーバッグを持ったパイロットスーツ姿の市ノ瀬が立っていた。
「市ノ瀬さん、どうしたんですか」
「ちょっと2番機使うから降りて」
市ノ瀬は水瀬に視線を合わすことなく言った。
「出撃命令は出ていないですよ」
「いいから降りて」
市ノ瀬は水瀬を押し退けるようにシートに座った。そして持っていたバッグを膝に置くと、ヘルメットをかぶった。
「ダメですよ。ひとりで行っちゃ」
水瀬は市ノ瀬が何をしようとしているのかすぐにわかった。
「もしも報瀬さんが動けなかったら、梅原君はたったひとりでいることになる。きっと助けが来るのを待ってる」
「だからって、勝手に行ったらダメです」
「いいから、降りて」
市ノ瀬はシステムを起動させると、コクピット側からハンガーのロックを解除した。
静かな格納庫内に、ロックの外れる音が響いた。
「慧ちゃん、どうしたの?」
ロックが外れたことに気付いた大森が、下から大きく叫んだ。
「なんでもありません。大丈夫です」
水瀬は平静を装った。騒ぎが大きくなることで、市ノ瀬を興奮させたくなかった。
「みんなが来る前にどいて」
市ノ瀬は水瀬を睨みつけた。
「どきません」
水瀬も市ノ瀬から視線を外さなかった。
「ハッチ閉めるから、そこにいると潰れるよ」
水瀬はそれがわかっていたので、あえてその位置に立っていた。
「どいて!潰すよ」
市ノ瀬はハッチのスイッチのあるタッチパネルに手をかけた。
「どきません!」
睨み合いが続く。
市ノ瀬はタッチパネルに触れた。
ハッチが静かな音を立て上から水瀬に向かってゆっくりと閉まる。
それでも水瀬は動こうとしない。市ノ瀬の顔が歪んだ。
ハッチが水瀬に当たる。それでも水瀬は市ノ瀬を睨みつづけた。
「どけって言ってる!」
「どきません!」
「どうして・・・」
水瀬の体を押し曲げるようにハッチが下がる。
市ノ瀬は震える手を振り上げた。
「もう!どーして行かせてくれないのぉ!」
市ノ瀬はタッチパネルのスイッチを拳で叩くと、ヘルメットを取り全周囲モニターに向かって投げつけた。
ヘルメットは何度か全周囲モニターで跳ね返ることを繰り返すと、水瀬の足元に転がって行った。
「何してるの!」
リフトに大森がいた。二人を見て大森はすぐに状況を理解した。
「だって・・・、だって、梅原君、いつも出撃前には何も食べないから、きっとお腹空かしてる・・・」
市ノ瀬は膝に置いていたショルダーバッグを両手で抱きしめた。悔しさで体が震えた。
大森は水瀬に手を回し、ハッチの隙間から一緒にコクピットに入ると、反対の手で市ノ瀬を引き寄せた。
二人を抱きしめる。
「市ノ瀬さんの行動は間違っていない。あたしだって、みんなだって行きたいはず」
市ノ瀬は震えながら声を押し殺して泣いている。
「水瀬さん、よく止めてくれたね。えらいよ」
水瀬の体も震えていた。
「二人とも正しいよ」
大森はふたりの頭を手で寄せた。
「市ノ瀬さんと同様に水瀬さんもそして他のみんなも梅原君のことを心配してる。でもね、それと同じくらい市ノ瀬さんのことも心配なんだよ。うちの部隊はみんなで一人一人を守ってきた。だから、今度もみんなで梅原君を助けようよ」
市ノ瀬も水瀬も大森に抱きついた。そして一気に声を出して泣いた。
その声は格納庫中に響いた。




