救助
独立遊撃部隊本部 宿泊棟
古川が廊下を歩いていると、古川の自室の前でしゃがんでいる市ノ瀬に気付いた。
「どうした?」
声をかけると、市ノ瀬は古川を待っていたようにすぐに立ち上がった。
そして古川に向き合うと、姿勢を正した。
「二人の救助に行かせてください!お願いします」
言い終わると、深く頭を下げた。
いつもの市ノ瀬とは違う態度に、古川はその真剣さと同時に感情を抑えられない焦った気持ちも感じ取った。
「市ノ瀬の気持ちは分かる。だが、今はダメだ」
「どうしてダメなんですか。二人は救助を待っているはずです」
市ノ瀬は引き下がらなかった。
「ダメだ」
たったひとことだが、それは重かった。
「でも・・・」
市ノ瀬の表情が悲しみに変わる。
古川はそのまま部屋に入った。
市ノ瀬は、しばらくドアの前で力が抜けたように立っていた。
「どうしたの?」
声は上田だった。
市ノ瀬はすがるように上田に駆け寄った。
「お願いします。二人の救助に行かせてください」
市ノ瀬は上田にも深く頭を下げた。
上田は市ノ瀬が古川の自室の前に立っていたことから、きっと古川にも同じことをしたのだろうと思った。そして、却下されたと。
「今はダメだよ」
上田はいつもの笑顔を全く見せることなく、やや強めの口調で言った。
「どうして・・・」
上田に断られると、もう頼る相手はいなかった。
市ノ瀬は肩を落とすと、そのまま歩き出し上田から離れた。肩が小刻みに震えていた。
上田はしばらくその後ろ姿を見ていた。
姿が見えなくなったところで、体に力を入れるように大きく息を吸うと、そのまま古川の自室に向かった。
ドアをノックする。
「上田です」
少しして、どうぞ、と古川の声がした。
中に入る。
扉の前に立った上田のいつになくきつい表情に、古川はやってきた目的を悟った。
上田は、どうして早く独立遊撃部隊として動かないのか、古川に問い詰めるつもりだった。
しかし、古川の顔を見た途端に言えなくなった。
古川の怒りの混ざった悔しさを感じてしまったから・・・。
独立遊撃部隊は軍とは関係なしに独自で動くことが出来る。なので、すぐにでも救助に向かうことも可能だった。
しかし、救助に向かえば誰もが穴に飛び込みたくなるのは目に見えていた。確かな方法もないまま闇雲にそんなことをしてしまえば、部隊員全員を危険に晒すことになる。
古川自身も、すぐにでも救助に向かいたい気持ちを抑えていたのだ。
「わたしには二人を助け出す手立てが何も浮かばないんだ。情けないことだ・・・」
古川の握り締めた手は震えていた。
「このあと、リモートで会議がある。そこで何か方法が見つかるかもしれない。それが終わるまで、もう少し待ってくれ」
「・・・」
上田は頭を下げると、部屋を出た。




