LOST
「それにしても、どうしてこんな中途半端な感じでキミは出てきたの?」
市ノ瀬はケルベロスの攻撃を回避しながら、ケルベロスに向けて呟いた。
ケルベロスが飛び上がり、市ノ瀬に爪を振り下ろす。巨体を考えればその動きは驚異的に俊敏だった。しかし、市ノ瀬にとっては通常のケルベロスと大差はなかった。
「ひょっとして、間違えて穴から落っこちちゃった・・・、とか」
巨体が着地し土煙が高く舞い上がる。その中にうっすらと確認出来るケルベロスに向け市ノ瀬はライフルを撃ち続けた。
「そのまま引き付けてて。背後に回り込む」
報瀬だった。
「りょーかーい」
市ノ瀬は素早くリロードすると、土煙の中から姿を現したケルベロスの頭に向けライフルを撃った。
レールガンを持った報瀬とバッテリーを背負った梅原がケルベロスの右方向から大きく回り込む。
さすがに重量物を持つ2機は、普段よりも動きが鈍かった。
梅原は報瀬に近づくとスピードを合わせ、バッテリーに繋がるケーブルの端を渡した。
「付いてこれる?」
「はい。やります」
報瀬がすぐにコネクターをレールガンに接続し、移動しながらチャージを始めた。
チャージの音の間隔が徐々に短くなる。
梅原は報瀬との距離を細かく調整しながら追従した。
報瀬たちがケルベロスのちょうど真後ろに回り込んだところでチャージが完了した。
ケルベロスが木々をなぎ倒したおかげで、ケルベロスまでの射線上に障害物は何もなかった。
報瀬はケーブルを抜くと、弾体の装填を行った。
梅原は念のため次のチャージに備える。
「市ノ瀬さん、射線から外れて!」
報瀬は片膝を付きレールガンを両腕と肩でしっかりと構えると、ケルベロスの頚に狙いをつけた。そして、トリガーを引く。
レールガンがプラズマを放ち、周囲に放電する。
一瞬で放たれた弾体は、狙い通りケルベロスの頚部に命中した。
潰れた弾体が跳ね返され地面に落ちた。
「ダメだ。倒せない」
レールガンが命中したにも関わらず、ケルベロスは消えなかった。
「でも、首から煙が出てる。効果あり」
梅原が次のチャージの準備を始めた。
「危ない。移動するよ」
ケルベロスが撃たれた痛みを感じたかのように急に暴れ出した。その動きに合わせて首から紫色の煙が噴き出す。
暴れながら振り回す尾が周囲の木を吹き飛ばす。
報瀬と梅原は、飛んでくる木を回避しながらケルベロスの動きを追った。
市ノ瀬が再びケルベロスの注意を向けるためにライフルを撃つ。しかし、ケルベロスは市ノ瀬には見向きもしないで、報瀬たちに迫った。
「こっちは大きな荷物持ってるから素早く動けない。あいつが落ち着くまで一旦離れた方が・・・」
「え? 何これ」
梅原が報瀬の言葉を遮るように驚いた声を出した。
「周囲がぼやけてる。これ、どこかで見たヤツ」
報瀬も同じ光景を目にしていた。
そんな中で、ケルベロスは何かを見つけたように突然空を見上げた。
そこには大きな白い穴があった。白というのはそう感じるだけで、何もないことを表す『白』なのかもしれない。
「ダメ! 逃げて!」
報瀬が叫んだ。
そのとき報瀬はケルベロスと目が合ったような気がした。
「何?」
ぼやけた景色の中で、ケルベロスは『白』に向かって飛び込んだ。
「逃げたの?」
二人の前でケルベロスの入った白い穴が急に大きくなった。いや、二人が急速に穴に吸い寄せられているのだ。
「報瀬さん、これまずいですよね・・・」
「離れないで!」
その直後、二人のコクピットは『白』に包まれた。
「何? どうなったの?」
市ノ瀬は目の前で起こったことが受け入れられず、ただ呆然としていた。
コクピットのモニターには、フェイクワンLOST、梅干しLOSTの文字が点滅していた。
独立遊撃部隊輸送機は放心状態の市ノ瀬を回収後、軍に応援を求め報瀬と梅原の捜索を行なった。
しかし、何も見つけることはできなかった。




