自らの手で
長野県 NCBM基地司令室
基地に戻った篠原と山内は、笹村とともに残っているNCBMをどうするか話し合っていた。
「ケルベロスにしてみたら、今回はかなりの成果を上げたことになると思います。なので、また同じ手を使ってくるでしょう」
目の下にクマを作った山内が自分の考えを述べた。
「やはり今のうちに処分するか」
篠原の言葉に笹村は唇をかんだ。
乗っ取りから救われた5機のNCBM、そして乗っ取りから免れた20機の予備機体。これらを残しておくと、再び乗っ取られる可能性が高い。その前に動かないようにしておく必要があった。
「確実に動かないようにするにはどんな方法がある?」
篠原が山内に聞いた。
「電気系統を止めても全く意味がないので、還流液を抜くのが確実だと思います」
「そんなことをしたら、生体組織が死んでしまう」
笹村が抗議するように言った。
NCBMは生体からの組織培養によって作られている。還流液はその組織の生体としての維持に不可欠なものだった。つまり還流液を抜いてしまうと組織は腐り機体は廃棄するしかなくなる。それは、NCBM部隊を率いてきた笹村にとって受け入れがたいことだった。
「笹村少佐。第1、第2小隊のパイロットが、機体から降りてもいいかと聞いてきていますが」
田沼からの通信を受けたオペレーターが聞いてきた。
判断に困った笹村は、山内に意見を求めた。
「僕が説明します」
山内は立ち上がるとヘッドセットをつけ、オペレーターから通信を受け取った。
「あ、研究所の山内です。降りても大丈夫です。外部からのイータ波を感知してから、ケルベロスが機体を動かすまでに少し時間があります。その間にコクピットに入れば問題ありません。接続率がケルベロスよりも高ければ、コクピットに入りさえすれば乗っ取りを解除できます・・・。ただし、イータ波感知のために、システムは絶対に落とさないでください・・・」
別のオペレーターが篠原に振り返った。
「篠原大佐。本部からです。長野基地北東の観測地点3213で、成れの果て物質の急速な濃度上昇を観測したと言うことです」
「3213はどこだ?」
「今回のケルベロスが出現した隣町です」
オペレーターがすぐに答えた。
「急いだほうがいいな」
篠原はそう言うと笹村に向き合った。
「笹村少佐、お前が命令を出せ」
「・・・はい」
笹村は絞り出すような声で言うと、オペレーターに指示を出した。
「整備員全員を第5格納庫に緊急招集。急がせろ。井桁整備主任を呼び出してくれ」
さらに篠原も指示を出す。
「ケルベロスがまた出るかもしれん。警戒を呼びかけろ。今回は空いたパイロットも探査に回せ」
篠原の声に、司令室が再び緊張に包まれた。
NCBM第5格納庫
第5格納庫にはケルベロスの乗っ取りから解放された5機のNCBMが収められていた。
「第1班は、第1、第2小隊の出撃の準備にかかれ。第2班はこの第5格納庫、残りは第6格納庫において全ての機体の還流液を抜く。その間、システムは必ず起動させておけ」
井桁が緊急招集された整備員たちに向かって指示を出した。
「全部抜くって、マジすか」
一人の整備員が驚きの声を出した。
「ケルベロスがまた来るらしい。乗っ取られて壊される前に、俺たちの手で葬ってやるんだ」
整備してきた機体を潰すのは、整備員たちにとって辛いことだった。
「時間がない。急げ!」
それは井桁にとっても同じことだった。しかし、手足を破壊され横たわる機体を見るほうがもっと辛かった。
独立遊撃部隊輸送機コクピット
「すまなかったなぁ。きっと俺のせいだ」
古川はコクピットに戻ってきた梅原と市ノ瀬に頭を下げた。
「え・・・」
二人は、何のことかわからず戸惑った。
「第2小隊に相手にされなかったことだ」
「でも、古川さんのせいって」
梅原が首を傾げた。
「第2小隊の隊長は浜田と言って俺と同期なんだが、何故だか昔から俺のことをあまりよく思っていないようで・・・。だから、俺の部隊の二人に対してあんな態度を取ったんだと思う」
「それが大人の事情ってこと?」
市ノ瀬が小さな声で梅原に聞いた。
「そういうこと、なのかな・・・」
梅原も小さな声で答えた。
「あああ、基地で動きがあります」
軍の無線を拾っていた上田が慌てるように言った。全員が上田に注目する。
「成れの果て物質の濃度上昇を観測したことに反応した動きのようです。乗っ取りを警戒して、NCBMの還流液を抜くようです」
「還流液を抜くって、機体がダメになるってことだよね。あの嫌味な第2小隊の機体もなくなっちゃうってこと? ちょっとかわいそうかも」
市ノ瀬が同情するように言うと、すぐに上田が。
「第1、第2小隊の機体はそのままみたいだよ」
「なんだ・・・。同情して損した」
市ノ瀬は小声で横にいる梅原に言った。




