救護
市街地 高機動車内
篠原のもとには、探索員から次々とケルベロス発見、処理の連絡が入ってきていた。
これで乗っ取られたNCBMは徐々にパイロットのもとに戻るはずだった。
「あー、相当数のケルベロスが出ているみたいです。消されたケルベロスに変わって別のがすぐにまた乗っ取りを行っています。位置情報を更新しますね」
山内は更新したケルベロスの位置情報を探索員の端末に送った。
「位置情報は頻繁に更新される。たえず確認しろ」
篠原も無線を送った。
「いったいどれだけいるんだ・・・」
いつまで経ってもケルベロスの位置情報がなくならない画面を見ながら山内が呆れるように言った。
「ケルベロスが出現してから、すでにかなりの時間が経っている。奴らは本気だ」
いよいよケルベロスの大攻勢が始まったのではないか、と篠原は感じた。
長野基地緩衝地帯
「確かに、最初に比べ動きが速くなってきている」
銃弾を全て打ち尽くした報瀬は、ライフルを腰のスロットに収め、刀剣を手にしていた。残りの敵機体は5機ほどだったが、すでに基地の外に出て緩衝地帯に入っていた。ここを抜けられると、住宅地に出てしまう。
「みんなにやれるって言った手前、やんなきゃね・・・」
そう呟くと、報瀬は第1小隊と交戦中の敵機体に接近し素早く後ろに回り込んだ。すぐさま背後から敵機体の腹部に刀剣を突き刺す。
「この手応えは、当たり」
報瀬が刀剣を引き抜くと同時に、白い還流液が10メートルほどの長さで勢いよく吹き出した。すぐにその勢いが落ちると敵機体は力が抜けたようにその場に倒れ込んだ。
「次!」
第1小隊と撃ち合う敵機体の1機が報瀬にライフルを向けた。バーニアで加速しその機体の足元に滑り込む。敵機体の放った銃弾は報瀬の機体を追うように地面で弾けた。刀剣を振り上げライフルを持った両腕を切り落とす。そのまま後ろに回り込み腹部に刀剣を突き刺した。
還流液が大きく噴き出す。やがて敵機体は崩れ落ちた。
その間に、第1小隊が1機行動不能していた。残りは2機だ。
「右、やります!」
『了解』
すぐに田沼の声が聞こえた。
報瀬は腰のスロットに付けていたライフルを左手で取ると、右側の敵機体に向けて投げつけた。投げられたライフルに反応して、敵機体は攻撃目標に迷いが生じた。
その隙に報瀬は一瞬で敵機体に近づくと、今度は側面から腹部に刀剣を突き刺した。
すぐに振り返り、残りの1機を確認する。第1小隊によって、ちょうど両手両足を破壊されたところだった。
報瀬は倒れ込む敵機体に向けジャンプすると、そのまま腹部に刀剣を突き刺した。
市街地 高機動車内
「あと5匹です」
山内が更新されたノートパソコンの画面を見ながら言った。
位置の特定により、物陰に隠れるように身を潜めNCBMを操っていたケルベロスは次々に発見され倒された。
最初は果てしなく続く乗っ取りに大きな不安を感じたが、それも終わりに近づいていた。
「そちらの状況はどうなっている」
篠原が敵NCBMとの戦況の確認のため笹村に無線を送った。
『第2小隊が残り5機の敵機体と交戦中。第1小隊と独立遊撃部隊の機体が支援に向かっています』
「ケルベロスの反応全て消えました」
山内は、終わったぁ・・・と、背伸びをするように両腕を伸ばした。
「笹村少佐。攻撃中止だ。もう機体は正常のはずだ』
篠原の命令によって、直ちに攻撃が中止された。
同時に乗っ取られていた残り5機のNCBMは、やっとパイロットのもとに戻された。
基地内にはあちこちに手足のなくなったNCBMが転がっていた。動きが止まったことで、パイロットは自力でコクピットから抜け出すことが可能になっていたが、中にはコクピットのハッチが開かず、閉じ込められている者もいた。
「強制キーもダメです。破壊しまーす」
仰向けに倒れている胴体だけのNCBMに取り付きコクピットの強制解除キーを入力した梅原が、諦めた様子で中のパイロットに告げた。
「市ノ瀬さん、壊して」
そばにいる市ノ瀬の機体に向かって言うと、梅原はすぐに自分の機体の影に隠れた。
市ノ瀬は倒れている機体に片足を置き自重をかけると、両手でコクピットの装甲を持ち引き剥がした。
剥がした装甲を放り投げ、コクピットの歪んだハッチの隙間に手を入れると、せーの!の掛け声とともに力一杯引っ張り上げた。
バシッという音を立てコクピットのハッチが剥がれた。
『ありがとう。やっと出られた』
ハッチがなくなり明るくなったコクピットで、パイロットが手を振った。
『次はどこ?』
1番機のコクピットに戻った梅原に、市ノ瀬が無線を送った。
「もう、これくらいで終わりだと思うけど」
そう言って梅原は無線のチャンネルを変えた。
「救護班です。コクピットから出られないパイロットの方はいますか」
しばらく待つが反応はなかった。
「無線が壊れて連絡の取れないパイロットもいるかもね。もう少しうろうろしてみよう」
『りょーかーい。コクピットの開いていない機体を探せばいいよね』
「そうだね」
二人が歩き出そうとすると、大型のクレーン車が近づいて来た。
そして2機のすぐ前で停止すると、中からツナギ姿の男性が出てきて大きな振りで頭のヘッドセットを指した。
おそらく2機の無線のチャンネルが分からないのだろう。
気付いた梅原は、無線のチャンネルを開放した。
「聞こえますか?」
『ああ、やっと話せる。こちらは機体の整備班だ。コクピットから救助されたパイロットに君たちのことを聞いて追っかけてきた』
男は梅原と市ノ瀬の機体を交互に見ながら話した。
『全てのパイロットが救助された。助かった。感謝する』
「よかった。じゃぁ、終了していいですか」
『ああ、機体の整備もあるだろうから、戻ってくれ。本当にありがとう』
男はそう言って大きく手を振るとクレーン車に戻り、短いクラクションを鳴らしクレーン車を発進させた。
「じゃぁ、戻ろうか」
『はーい』
ふたりは滑走路横の駐機場にある輸送機に向かって歩き出した。
『ああ、なんか、あの第2小隊のヒト、嫌な雰囲気だったね。ああ、思い出すだけで腹が立つ』
市ノ瀬がイラついたように言った。
「そうだね。大人の事情ってやつなのかな?」
『なに、大人の事情って?』
「さぁ・・・」
『あ、上田さんに終了したって連絡した?』
「してない」
梅原は慌てて輸送機への回線を開いた。




