戦闘開始
市街地 高機動車内
「みんなシステムがダウンしてるのか・・・。これじゃ機体からログを受け取れない」
篠原と一緒に高機動車で街に出た山内は、困った表情でノートパソコンを見ていた。
篠原は街でケルベロスを探す隊員たちの指揮を取っていた。そこに通信が入った。
『ケルベロス発見。側溝の中いました』
「いつでも攻撃できる態勢で少し待て」
篠原はすぐに笹村に通信を繋いだ。
しばらくして、笹村がモニターに現れた。相変わらず司令室は混乱しているようだった。
『すぐに出られなくて申し訳ありません』
「いや構わん。今からケルベロスを一体消す。乗っ取られた機体に変化を示すものがないか確認してくれ」
『了解』
『・・・全機に連絡。機体の変化に注意・・・』
笹村はモニターから消え、声だけが聞こえてきた。
篠原はケルベロスに攻撃態勢を取る隊員に通信を切り替えた。
「いいぞ、攻撃開始」
『攻撃します』
ライフルの音が聞こえる。
『ケルベロス消滅』
少しして笹村から通信が来た。
『一瞬ですが、操作可能になった機体がありました。しかし、すぐにまた操作不能になったようです』
「済まない。ありがとう」
わかっていたことだが、これでケルベロスが乗っ取っていることが確実なものになったと篠原は思った。ケルベロスを全て排除すれば乗っ取りを解除できる。
「篠原さん、やっぱり機体のシステムが動かないとデータの収集ができません。今の状態なら機体のシステムの再起動が可能なはずなんですけど、それどころじゃないのかな」
「司令室から全機体に指示を出すか?」
「きっと今も司令室は混乱してるでしょうし、パイロットもそれどころじゃないと思いますから、勝手にやってもいいでしょうか。こっそり軍のサーバーに侵入します」
「こっそりじゃなくていい。俺が許可する。入れ」
「了解」
山内は慣れた手つきでキーボードに触れると、いとも簡単に軍のサーバーに入った。
そしてNCBMのシステムを一斉に再起動させた。
「あ、来ました」
山内のパソコンの画面にそれぞれのNCBMから送られてきたイータ波発生地点が表示された。
「篠原だ。全探索員の端末にケルベロスの位置情報を転送する。必ずそこにいるはずだ。発見次第消せ!」
篠原がすかさず町の中でケルベロスを探査している全隊員に無線を送ると、すぐに山内がデータを転送した。
独立遊撃部隊輸送機
「こちら独立遊撃部隊、NCBMの降下許可を」
長野基地上空に到達した輸送機から古川が司令室に無線を送った。
『笹村です。お願いします。山内君がケルベロスの位置の特定に成功しました。篠原大佐とともに現場で指揮を取っています。司令室はかなり混乱しています。情報は現場の第1、第2小隊と直接共有してください』
「了解しました」
笹村の無線には飛び交うオペレーターの声が混ざり、その混乱ぶりが伝わってきた。古川は簡単な会話のみで無線を切った。
「降下開始。状況は降下後、第1、第2小隊に直接確認」
輸送機のゲートが3方向に大きく開く。そして、輸送機は機首を下げた。
「識別マーカーの更新大丈夫だね」
報瀬が梅原と市ノ瀬に確認をとった。
『更新されています』
『だいじょーぶです』
「あたしは第1小隊に付くから、二人は第2小隊に向かって」
『了解』
『りょーかーい』
「フェイクワン、降下」
0番機が後部ゲートから飛び出した。
続けて左右のゲートから、1番機、そして2番機が輸送機を離れた。
報瀬はすぐに第1小隊を確認した。
識別マーカーがなければ、どれが乗っ取られた機体なのか全く判断できない。
第1小隊の5機はやや散開しながら戦闘を行っていた。ライフルの銃声が響く。
第1小隊の動きは速い。しかし、同様に乗っ取られた機体の動きも速かった。互いにライフルを撃ち合うが、どちらもたやすく当てることはできなかった。
現場は基地と周辺住宅地との緩衝地帯に迫っていた。
「独立遊撃部隊0番機、フェイクワンです。田沼中尉、状況をおしえてください」
第1小隊のすぐ後方に着地した報瀬が、田沼に無線を送った。
『支援感謝する。乗っ取られた機体の行動を止めるために四肢を攻撃しているが、手こずっている状態だ。どんどん相手の動きが速くなっている』
そう伝える田沼の機体に、死角から刀剣を持ったNCBMが迫った。
『隊長、後ろ!』
気付いた2番機の川島が叫んだ。このタイミングでは田沼がやられたと思った。
しかしその直後、川島は刀剣を持った右腕が飛んでいくのを見た。
切断された右腕が鈍い音を立てて地面に落ちた。報瀬が切断していたのだった。
右腕を切られ一瞬動きを止めた敵機体の足にすかさず田沼と川島が銃撃を当てると、両足が吹き飛びそのNCBMは崩れるように倒れ込んだ。
『助かった。ありがとう』
「ごめんなさい。あたしが話しかけたせいです。じゃぁ、攻撃を始めます」
『フェイクワンに追従。必要に応じて援護しろ』
報瀬は識別マーカーを確認しながら目標に向けて加速した。
梅原と市ノ瀬は第2小隊近くに降下していた。
何機ものNCBMが入り乱れるようにライフルを撃ち合っていた。第2小隊も明らかに苦戦していた。
「独立遊撃部隊、1番機と2番機です。攻撃に参加します。状況を教えてください」
梅原が無線を送った。
『こちら第2小隊隊長、浜田だ。ここは問題ない。手出しは無用だ。行動不能となった機体の救護にでも行ってくれ』
その時、2機の敵機体が刀剣を振り上げ、同時に第2小隊の5番機に襲い掛かった。
「え、でも・・・」
回避の遅れた5番機に襲い掛かる敵機体に向けて他の4機がライフルを撃つ。しかし、敵機体の動きが速く射線が大きくズレた。
「市ノ瀬さんは右」
『りょーかい』
二人の連射した銃弾が襲い掛かる2機の刀剣を吹き飛ばし、さらに続けて片足を破壊した。
『下がれ! 学生の手出しは無用だと言っている。ここは軍の施設だ。軍の指示が優先される』
第2小隊の機体が、倒れ込んだ敵機体の残った腕と足を攻撃し、完全に行動不能にした。
『救護に回れ!』
第2小隊は敵機体を引き付けるようにその場を離れた。
「どう言うこと?」
梅原が市ノ瀬に無線を送った。
『まぁ、嫌われてる・・・、みたいな』
市ノ瀬が呆れたように言った。
「僕たち嫌われてるようなんですけど・・・」
梅原が輸送機の上田に向けて無線を送った。
独立遊撃部隊輸送機
「どうします」
第2小隊と梅原たちのやり取りの一部始終を聞いていた上田が古川に聞いた。
「第2小隊の隊長は、浜田だったな・・・」
古川と浜田は同期だった。しかし、馴染める相手ではなかった。
「どうされました?」
考え込む古川を心配して上田が聞き直した。
「いや、波風を立てる必要はない。言われた通りパイロットの救護をやってもらおう」
「って、ことだから、ごめんね」
上田が謝る必要は全くないのだが、二人の気持ちを察した言葉だった。
『了解しました』
『りょーかーい』
市ノ瀬の返事は明らかに不満そうだった。




