対NCBM
独立遊撃部隊輸送機
長野に向かう独立遊撃部隊輸送機のコクピットでは、ブリーフィングが行われていた。
「最新型のケルベロスはすごいんだね」
ケルベロスが軍のNCBMを大量に乗っ取ったとの説明を聞いた市ノ瀬が感心するようにつぶやいた。
「僕たちは接続率が高いから大丈夫ってことですけど、機体から降りたらどうなるんですか?」
「そうだよね・・・」
梅原の疑問に、その答えを待たず市ノ瀬が慌て出した。
「あはは、それは問題ないよ」
上田が笑いながら説明を始めた。
「脳から出るイータ波は指紋のように一人一人違うの。通常のコクピットはそんな違いを認識しないけど、うちの機体はパイロット3人のイータ波を認識してる。だから、3人以外には絶対に動かせない。もっとすごいのは、3機は互いにイータ波の情報を共有してるから、3人の中なら機体を交換しても動かせるんだよ。まぁ、それぞれクセがあるから乗りにくいとは思うけどね」
「よかったぁ。ひょっとして、コクピットで寝泊りしなきゃいけないのかと思った」
市ノ瀬はほっとした表情を見せた。
「まぁ、うちの機体に関してはそんな心配は皆無ってことで、問題は乗っ取られたNCBMをどうするかってことなんだけど」
上田が話を進めようとしたところで、市ノ瀬が手をあげた。
「乗っ取られた機体を報瀬さんが乗っ取ると言うのはどうでしょう。出来ますよね」
そう言って市ノ瀬は報瀬を見た。
「ああ、それね。あたしも最初は考えたんだけど・・・」
みんながその答えに興味あり気に報瀬を見た。
「乗っ取ったあと、どうするの?」
報瀬は逆に手を上げたままの市ノ瀬に聞いた。
「・・・乗っ取り返したら、機体を安全な場所に置いて、他の機体も乗っ取る・・・、とか」
「機体は1機しか扱えないから、他の機体を乗っ取り返した時点でもとの機体がまた乗っ取られるよ、多分」
「ああ、なるほど・・・。失礼しました」
市ノ瀬は上げていた手を静かに下ろした。
「いい考えだと思ったんだけどな・・・」
横にいる梅原に市ノ瀬は小声で言った。梅原は、あははと笑った。
上田が話を進める。
「乗っ取られたNCBMに関しては、それを操作しているケルベロスを山内君が探すことになるんだけど、それを待っていると基地の外にも被害が出てしまう可能性があるので、早急にNCBMを行動不能にしないといけません。3人ともNCBMとの実践は流石に経験していないので、どうしたら動きを止められるか、大森さんから話をしてもらうね」
上田は、お願いしますと、大森に話を振った。
「まず、乗っ取られた軍のNCBMにはパイロットが乗っています。なので、コクピットの破壊はNGです。まぁ、コクピットを破壊しても動きを止めることはできませんが・・・」
大森はNCBMを爆破させずに動きを止める方法の説明を始めた。
「乗っ取られた機体は、直接神経を支配されています。なので、システムなどの電気系を破壊しても動きは止まりません。そうなると一番分かりやすい方法は、手足を破壊することです。これで攻撃も移動もできなくなります。しかし、NCBMには装甲がついています。ケルベロスのようにライフルを1発当てればいいと言うものではありません。装甲を吹き飛ばすくらい銃弾を当てるか、装甲の隙間を狙うしかありません」
「刀で装甲って切れるんですか?」
市ノ瀬がまた手を上げながら聞いてきた。
「切れます。ただし数回で刃がボロボロになります」
「でも、相手もこっちの装甲を切れるってことだからね」
報瀬が補足するように市ノ瀬に言った。
「手足の切断は簡単ですけど、4本切るのは面倒ですよね。そこで別の方法です。これは一発で動きを止めることが出来ます」
大森はモニターにNCBMの構造図を表示した。そしてその腹部の一つのパーツを示した。
「これは、還流液を循環させるポンプです。これを突き刺せば、循環が止まり素早く動きを止めることが出来ます」
「ポンプをひと突きか。簡単そう」
市ノ瀬が自身ありげに言った。
「その、ポンプの横の大きなパーツはなんなんですか?」
梅原がポンプに覆いかぶさるように配置された大きめのパーツを指さした。
「これは、NCBMの動力源。だから、ポンプを刺すときに誤ってこっちを傷付けたら・・・、ドカン!」
「え・・・」
市ノ瀬の先ほどまでの勢いが萎えた。
「ポンプを破壊して還流液の循環をなくすのが一番いい方法なんだけど、ポンプの場所がね・・・」
そう言って大森は、肩を落とす市ノ瀬に笑顔を向けた。
「だったら、還流液の閉鎖弁のない場所でどこか1箇所でも切断すればいいってことですよね」
梅原が確認すると。
「ああ、昔はね。以前は首とか肩とか切っちゃえば、還流液の噴出を止めることが出来なかったんだけど、今はそれよりも近位に閉鎖弁がついてるから、ちょっと無理かなぁ」
大森が申し訳なさそうに言った。
「でもさ、みんななら確実にポンプを突き刺せるよ」
報瀬は当然のようにそう言って梅原と市ノ瀬を見た。
「ですよね」
「はい」
報瀬の言葉は、二人に『やれる』と思わせた。
「まぁ、実際にはその時の状況で判断してください。一応、NCBMはどれだけ破壊しても構わないってことだからね。それでは現在の状況を説明します」
上田がモニターの表示を変えた。長野基地のリアルタイム映像だった。
「どうなってるの、これ?」
市ノ瀬が理解に苦しむような表情で言った。
いくつものNCBMが基地内の施設を破壊しながら移動している。
NCBMがライフルを撃つ。しかし、その相手はNCBMだった。
撃たれたNCBMが反撃し、撃ってきた機体の足を飛ばした。
モニターを見る全員が、NCBM同士が戦っているその異様な光景に見入っていた。
「はい、こっち注目」
上田が注意を向けるようにして、話を続けた。
「えーとですね。軍の機体は、第5、第6小隊の10機が全滅。第8小隊全滅。第3、第4、第7、そして第9、第10小隊の全ての機体がパイロットを乗せたまま乗っ取られています。それらを相手に、乗っ取られていない第1、第2小隊が交戦中というところです。分かった?」
梅原も市ノ瀬も、上田の説明を理解しようと何度も頭で反芻したが、よく分からない・・・。
「つまり、第1、第2小隊以外は敵だと言うことですね」
「あ・・・、そう、そう言うこと」
報瀬が簡単に説明し直したことに、梅原も市ノ瀬もすぐに理解した様子だった。
「第1、第2小隊が乗っ取られていない理由は、もうすでにみんなは分かっていると思うけど、接続率の関係です」
「あと5分で長野基地上空」
輸送機を操縦する遠藤が言った。
「降下準備」
「はい」
3人のパイロットと3人の整備士が一斉に立ち上がった。




