逆探知
バイオエレクトロニクス研究所 研究棟屋上
陽が沈み星が輝き始める頃、報瀬は研究所の屋上の端にいた。
周囲に建物が何もなく木々に囲まれた研究所の屋上は、星を見るにはもってこいの場所だった。
空を見上げる。
相変わらず報瀬は、空の煌く星に手が届きそうな気がしていた。
時々見るあの世界がそんな気にさせるのだろうか。
しかし、見えない壁によって遮られた状態で、星を掴むなんて事はありえないと思った。
「きっとあたしの頭はまだ子供のままなんだ・・・」
そう思って納得するしかなかった。
時計を見る。
「そろそろいいかな」
時間を確認した報瀬は、一瞬動きを止めた。
風が木々の葉を揺らす。葉の擦れる音が、サワサワと心地よかった。
しばらくすると手に持っていた携帯端末が鳴った。山内だ。
「報瀬です」
『今回は研究棟の屋上、南側の端っこだね』
「せいかーい」
『じゃぁ、今日はこれで終わろうか。高低差もちゃんと分かるようになったし、これだけ正確に位置の特定ができれば、もう完成だ』
山内の声は嬉しそうだった。
「じゃぁ、もうあたしは滋賀に戻ってもいいかな」
『うん。上田さんもそろそろ戻るって言ってたから、一緒に戻れると思うよ』
「わかった。上田さんと話してみる」
『協力ありがとね』
「どういたしまして」
通信を切ると、報瀬は大きく背伸びをした。さっきよりも星が多くなっているような気がした。
再び携帯端末が鳴った。
画面を見ると、大学の同級生の高井真琴だった。
「はーい、報瀬でーす」
学生のトーンで端末に出た。
『あ、報瀬。今大丈夫?』
「大丈夫だよ」
『あのね、お母さんが倒れちゃってさ』
「え、大変じゃん」
『ああ、過労みたいだから、しばらく休めば大丈夫なんだけど、うちの実家は定食屋でさ、お父さんとお母さん二人でやってるから手が足らなくなっちゃって。だから、しばらく実家に帰ることにした』
「そうなんだ」
『報瀬は今もボランティアしてるの?』
「あ、ああ・・・、たまにね」
『そっか、偉いね。無理しないでね』
「真琴もね。でも、しっかり手伝ってお父さんやお母さんを楽させてあげな」
『うん、ありがと。じゃぁ、また連絡するね』
「うん。またね」
真琴の実家は長野のNCBMの基地の近くだと聞いていた。また長野の基地に行くようなことがあれば、顔を出してみようかと思った。しかし、その理由が『基地に来たから』というわけにはいかず、報瀬の頭を悩ませた。




