反乱
独立遊撃部隊本部 食堂
愛知の襲撃から5日後。
梅原と市ノ瀬は、朝の混雑するピークを過ぎた食堂で、向かい合って座り少し遅めの朝食をとっていた。こんな時間に食べるのは、最初にここにきた時からの慣例ともいうべきものだった。
「なんだか中途半端って感じだね。出撃もないし、かと言って家に戻されるわけでもないし」
「そうだね」
二人ともサラダ付きのハムエッグにトースト、そしてオレンジジュースのメニューだった。
梅原がトーストの最後のひと欠けを口にしようとしたところで、急に胸のポケットに入れた携帯端末が鳴った。
トーストを皿に戻し、端末の画面を見ると上田だった。
「はい。梅原です」
『市ノ瀬さんも一緒にいる?』
「はい、いますよ」
市ノ瀬がトマトを口に運びながら、なに?という顔を梅原に向けた。
『すぐにブリーフィングルームに集合。急いでね』
上田の通信はすぐに切れた。
「上田さんがブリーフィングルームにすぐに来いって」
「え、マジ」
市ノ瀬は慌てて残りのサラダを口に入れようと、皿を手に持った。
「緊急出動かもしれないから、食べると戦闘で吐いちゃうよ」
「あ、そっか」
二人とも食べかけのパンやサラダののったトレーを持つと、食器の返却口へと走った。
「おばさん! 緊急の呼び出しだから、残しちゃった。ごめんなさい」
残りの朝食をそのままブリーフィングルームに持っていくわけにもいかず、トレーを置くと名残惜しそうに食堂を出た。
全力疾走でブリーフィングルームに到着し、ドアを開ける。するとすでに全員が席についていた。
そこに緊張感は感じられなかったので、少なくとも緊急出動ではないなと二人は感じた。
二人が着席すると、すぐに上田が話を始めた。
「本部からの情報によると、今朝早くに長野のNCBM基地から5キロほど離れた住宅地にケルベロスを見たと警察に通報がありました。そこで警察から軍に連絡が入り、基地から2機のNCBMが現場に向かったということです。で、問題はここからなんですが・・・」
上田も状況がよくわかっていないのか、手に持った端末を何度か確認した。
「えーと、2機のNCBMのうち1機が、一緒にいた機体をライフルで撃った・・・、らしいのです」
「どーいうこと?」
報瀬が聞き返すように言った。
上田は端末をもう一度確認した。
「攻撃して、相手の右腕を飛ばしたみたい」
「パイロットの反乱ですか」
市ノ瀬が興奮気味に聞いてきた。
「その後、そのパイロットは拘束されたんだけど、機体が勝手に動いて攻撃したと、少しパニック状態になっていたとのことです」
「この間のオートエイムの誤作動とか」
梅原が、エイムの邪魔になったオートエイム強化プログラムを疑った。
「それはないよ。だってあくまでトリガー引くのはパイロットだもん」
大森が即座に答えた。
「あのプログラムには梅原君がちゃんと勝ってたでしょ」
「そっか」
大森と市ノ瀬の言ったことに、梅原は納得した。
「でも、機体が勝手に動くなんてことあるのかなぁ・・・」
報瀬が考え込むように言った。
「実は、前回の愛知での出撃の後、NCBMのシステムにわずかにノイズが混入していたらしい。今回のことに関係があるのかわからんが、研究所の山内君が調査している」
古川の言ったことは、皆はまだ知らなかった。
「もしかして、システムに侵入したってことですか。それだったら、乗っ取りじゃないですか」
報瀬の言葉に、まさか、と皆が驚いた声を出した。
「NCBMは我が国最大の軍事機密だ。まぁ、他の国が狙っているとしてもおかしくないが・・・」
もしもそうであれば、独立遊撃部隊も狙われる可能性は十分にあった。
「まぁ、まだ詳細は何もわかっていない。そこで、勝手に動いたと言われる機体を研究所で調査することになった。長野基地からは井桁整備主任が機体の搬送に伴って研究所に行き、うちからは上田君と報瀬君が加わることになった。この後、遠藤少尉の操縦で二人は研究所に飛んでもらう」
「了解でーす」
報瀬が手を挙げて応えた。
「あ、そーいえば、ケルベロスはどうなったんですか?」
市ノ瀬が思い出したように聞いた。
「結局、ケルベロスは見つからなかったそうよ」
上田が端末で新しい情報を確認しながら言った。
「でも、もう時間が経ってるから、どちらにしても消えてますよね」
梅原の言ったことに、市ノ瀬は時間制限のことを思い出した。
「長野の基地を輸送機はすでに出ているはずだ。早速飛んでくれ」
古川の言葉に、遠藤、上田、そして報瀬は足早にブリーフィングルームを出て行った。
「いいなぁ、一緒に行きたかったなぁ・・・、ね」
市ノ瀬はそう言って梅原を見た。




