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アシスト


 Magic Attack作戦開始と共に、独立遊撃部隊輸送機も基地を飛び立っていた。

 格納庫ではそれぞれのパイロットがコクピットに座り、その横で搭乗整備士が最終チェックを行なっていた。

 『ウイルスの散布は軍のNCBM部隊が行う。我々は市街地に向かっているケルベロスの討伐だ。被害をできるだけ抑える』

 「倒しちゃっていいってことですか?」

 ヘルメットに聞こえる古川の説明に、0番機のコクピットで出撃準備をする報瀬が聞いた。

 「そうだ。市街地に入った個体は倒してもかまわん」

 「了解。って、ことでいいかな」

 『了解』

 『りょーかーい』

 梅原と市ノ瀬が応えた。

 『この間の方法は、どうします?』

 「いいよ。試しにやってみよう。でもダメだったら、ひたすら弾を打ち込むしかないから」

 3人の機体は前回同様、予備の弾倉がついたバックパックを背負っていた。

 変異によってケルベロスの防御が高くなったのは、被毛の硬さによるものだった。そこで市ノ瀬は前回の戦闘で毛の流れに逆らうように刀剣を皮膚に突き刺し倒したのだった。しかし、ケルベロスは戦いの経験を死亡時に伝達する能力を持っている。そのため今回もその方法が通用する可能性は極めて低かった。

 『まもなく、作戦ポイント上空に到達。降下準備に入ってください』

 上田の声がすると、0番機のコクピットからは大森が、2番機のコクピットからは水瀬が離れた。

 1番機のコクピットには、藤代が梅原に付いていた。

 今回から1番機の担当として輸送機に乗り込んだ藤代は、出撃に備えて1番機の十分な整備を行い、何度もその作業をマニュアルに沿って確認していた。

 機体に触れれば触れるほど、独立遊撃部隊のNCBMが量産型とは大きく異なる手の込んだ特別なものだと感じた。

 やはりここは特別な部隊、だから戦績がいいんだ・・・。

 藤代は、そんな特別な場所で、特別な機体を整備できる事を誇らしく思っていた。

 「すべて規定通りに仕上げてあります。何度も確認しました。問題はありません」

 藤代が親指を立て梅原にサムズアップを示すとコクピットを離れた。

 「ありがとうございます」

 リフトに乗った藤代のヘッドセットに梅原の声が届いた。

 

 『ゲートオープン』

 上田の合図で輸送機の3方向のゲートが開き、遠藤は輸送機の機首を下げた。

 『市街地に向かっていた5体のケルベロスの内、4体は軍のNCBMの誘導によって山中に戻されている。目標は1体だ。3機ならなんとかなるだろう』

 「了解。フェイクワン、降下」

 『梅干し、出ます・・・。あれ?」

 「梅原君、どうした?」

 『いや、なんでもありません。出ます』

 報瀬が聞いてきたが、梅原はそのまま輸送機から飛び出した。

 『ハグミミ。いっきまーす』

 続けて市ノ瀬がいつもの調子で降下した。

 

 「うわっ」

 梅原は思わず声を出していた。

 市ノ瀬が機体を着地させると、目の前で梅原の機体が尻餅をついていた。

 『何やってんの。ヘタクソ。先行くよ』

 市ノ瀬が馬鹿にしたように言うと、すぐに報瀬の後に続いた。

 「違うよ。機体がおかしい」

 梅原が降下前に気のせいで済ました違和感は、そうではなかった。

 『どうしたの? どこがおかしい?』

 機体がおかしいという言葉に反応して大森が聞いてきた。

 「よくわからないですけど、動かそうとするとそれを打ち消すような力が働いて思うように動きません」

 『藤代さん、どお?』

 『エラーは何も出ていません』

 『梅原君、こちらで確認するからちょっと待って』

 『梅原の機体にトラブルだ。フェイクワン、ハグミミはそのままケルベロスに向かえ』

 『フェイクワン、了解』

 『ハグミミ、りょーかい』

 『バックパックから補給しなきゃいけないから、離れないでね』

 『りょーかーい。梅干くん、ここは女子に任せといて』

 皆の通信を聞きながら梅原は焦る気持ちの中、原因を探るために自分でもキーボードを叩いていた。


 

 「藤代さん、何か思い当たるようなところはない?」

 大森が遠隔で1番機のシステムに接続したモニター表示を見ながら聞いてきた。

 「はい。規定通りに終了しエラーがないことを確認しました」

 藤代は出撃前に行った1番機の整備手順を思い返していた。胃がきゅっと軋んだ。

 『あれ、モニターの隅のassistの表示って、今でもありましたっけ』

 梅原がいつもとは違うモニターの表示に気付いた。

 「ないよ、そんなの。え? アシストが作動してる」

 急にアラーム音がなった。

 『エラー表示出ました。直後にシステムダウン。真っ暗です』

 梅原が焦った声を出した。

 「アシストは裏に隠してあるはずなのに、どうして」

 大森が藤代を見ると、藤代は顔をこわばらせて震える小さな声を出した。

 「わ、わたしです。ぐ、軍の規定のつもりで・・・作動させました・・・」

 「梅原君、間違ってアシストが作動してた。おそらくそのせい。こちらでプログラムの排除、再起動させるから安全を確保して」

 茫然とする藤代をそのままに、大森はキーボードに向かった。

 「0番機もこっちでモニターします」

 水瀬が冷静な声を出した。



 『アシストが入っていると、どうして動かなくなるんですか?』

 市街地に侵入したケルベロスに向かいながら市ノ瀬が報瀬に通信を送った。

 「ああ、梅原君とシステムとで反発しあってるんじゃないかな。いっそ、システム切っちゃえばいいのに」

 そっか・・・、市ノ瀬は機体の頭部を飛ばされシステムダウンした機体が動かせたことを思い出していた。

 「ケルベロス発見。引き寄せるから、突き刺してみて」

 『りょーかい』

 報瀬はケルベロスにライフルを向けると、すぐにトリガーを引いた。

 気付いたケルベロスが向きを変え射線から外れると、そのまま報瀬の機体目掛けて飛び上がった。

 その着地のタイミングで、市ノ瀬はすかさず刀剣を毛に逆らって突き刺した。

 キィーン・・・

 甲高い音と共に折れた刀剣の先が飛び、街路樹を切って道路に刺さった。

 『ダメみたいでーす』

 市ノ瀬が、やれやれといった感じの声を出した。

 「じゃぁ、銃撃開始!」

 二人は同時にトリガーを引いた。

 ケルベロスの動きは俊敏だった。

 横に飛びながら報瀬の銃弾を避ける。それを予測するように市ノ瀬が銃弾をケルベロスに当てた。

 ケルベロスは銃撃に怯むことなく動き回り、2機への距離を詰める。

 住宅が潰れ、倒れた電線からはショートした火花が飛んだ。

 2機は離れないようにケルベロスとの距離を取り、銃撃を続けた。

 リロードを繰り返す。

 『ああ、もう。家だらけでやりにくい。あ・・・』

 建物を避けた市ノ瀬は自動車を踏んでいた。

 やがて、市ノ瀬の機体のスロットの弾倉がなくなった。

 「いいよ、取って」

 すかさず報瀬がライフルを撃ちながら機体の背を市ノ瀬に向けた。

 すぐさま報瀬の背から弾倉を取ると、ライフルと腰のスロットに装着した。

 『次どうぞ』

 市ノ瀬がトリガーを引き始めたタイミングで、今度は報瀬が市ノ瀬の機体の背から弾倉を補充した。

 『どれだけ撃ちましたっけ?』

 「もうわかんないなぁ」

 2機は確実に当てていた。しかし、ケルベロスが消える事はなかった。

 何度背から弾倉を補充し、リロードしただろう。

 『もう、これで最後です』

 弾倉の残りがないのは報瀬も同じだった。これが尽きたら、ケルベロスを止められない。被害が大きくなるのは明らかだった。

 『しゅーりょー・・・です』

 弾がなくなった市ノ瀬は腰の刀剣に手を伸ばしたが、そこに刀剣はなかった。そうだ、折れたんだっけ・・・。

 すると報瀬の銃声に別の音が重なった。

 『男子、参上』

 報瀬と市ノ瀬が全周囲モニター越しに振り返ると、コクピットのハッチを開けたままの1番機がライフルを撃っていた。

 『システムなしでも動かせること思い出したから来ました』

 梅原はライフルを撃ちながら市ノ瀬の機体に背を向けた。

 「市ノ瀬さん!」

 報瀬の声に、市ノ瀬が気付いたように1番機に機体を寄せた。すぐにバックパックから弾倉を補充する。

 ケルベロスが報瀬に襲い掛かる。

 弾を打ち尽くした報瀬は、ライフルを左手に持つと右手で刀剣を取った。

 ケルベロスの着地と同時に横に避ける。潰れた住宅から大きく土煙が広がり報瀬を隠した。

 すぐにケルベロスは目標を梅原に変えた。

 『梅原君、避けて!』

 1番機の背から補給を終えた市ノ瀬が叫んだ。

 梅原は分かっていたように機体をひねりジャンプすると、リロードしながら報瀬の前に着地した。

 市ノ瀬がケルベロスを引きつける。

 「大丈夫?」

 報瀬が弾倉を補充しながら梅原に聞いた。

 『ハッチが邪魔で見にくいですけど。なんとか大丈夫です』

 「いざとなったら、切り落としてあげるよ」

 そう言って報瀬は、市ノ瀬に襲い掛かろうとするケルベロスにライフルを向けた。

 梅原も同時にトリガーを引く。

 3機のライフルがケルベロスを撃つ。薬莢が飛び散る。

 パンッ!

 ケルベロスは破裂音と共に霧散した。

 『これは、やっつけたんですよね』

 市ノ瀬が確かめるように聞いた。

 「山にはケルベロスがまだ残っているから、やっつけたね。ですよね。上田さん」

 報瀬は上田に確認の無線を送った。

 『消滅確認。お疲れ様。多分、山のももうすぐ消えると思うけど、市街地に向かうケルベロスがまた出るといけないから、もう少しそこで待機して。補給コンテナ落とすから、頭上に注意』

 「フェイクワン、了解」

 『あ、システム戻りました』

 梅原の声がした。

 『どお? アシストの表示消えてる?』

 大森の声が続いた。

 『はい、消えてます。これでハッチを閉められます。ありがとございます』

 報瀬が梅原の機体に目をやると、コクピットのハッチがちょうど閉まるところだった。

 


 軍のNCBM部隊の放つウイルスの入った銃弾は、確実にケルベロスの頭部周囲に拡散されていた。

 その様子を統合軍本部のモニターで見ていた原は、これなら確実に感染している、と篠原に太鼓判を押した。

 しばらくして、ケルベロスの消失が確認された。


 9月20日、13:10。Magic Attackが無事に終了した。



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