Magic Attack開始
神奈川県 国防省統合軍作戦司令室
「岐阜県瑞浪市山中にケルベロス出現。数は100。周囲住民の緊急避難を行っていますが、一部は市街地に向かっています」
大型モニターには、地図に重なったケルベロスのマーカーが多数表示されている。
出現したケルベロスの数がやや多くなった。
今回のケルベロスは今までにも増して硬くなっているはずだ。
これを逃せば、次はいよいよ大攻勢をかけてくるだろう。
防御力を高めたケルベロスがどこまで通用するのか、その能力の確認の最終段階なのではないのか。
モニターのマーカーを見ながら、指令席に座る篠原はそう考えた。
「笹村少佐、出ました」
通信オペレーターが篠原のモニターに回線を繋いだ。
「笹村、行けるか?」
『はい。問題ありません』
「1015。ただ今よりウイルスによる攻撃、Magic Attackを開始する」
『了解。Magic Attackを開始します』
9月20日、10:15。NCBM部隊全輸送機が長野の基地を飛び立った。
NCBMの持つライフルの銃弾には、十分に増殖させゲノム編集を行ったCDV由来のウイルスが入っていた。これをケルベロスの頭部周辺で破裂させ、中のウイルスを拡散感染させる。そして、感染させた個体をどこにあるかわからない巣に帰させ、そこで繁殖個体にも感染させるのだ。
今までマスコミなどによる悪いイメージの拡散を抑えるために、ウイルスという言葉を避けMagic Attackという曖昧な表現をしてきたが、ここまでくればもう止めることはできない。
世論がどう評価しようと、残された方法はこれしかないのだ。
「現在、5体のケルベロスが市街地に向かっている。第1、第2小隊はこれを誘導して山中の集団に戻せ。指揮は第1小隊田沼中尉に任せる。残りの部隊はケルベロス集団に対してウイルス散布を行う」
指揮管制機の指令席に座る笹村が指示を出す。
「あと2分ほどで現場上空に入ります」
「各輸送機、降下準備開始」
索敵モニターにケルベロスのマーカーが映し出される。
「ウイルス散布をもう一度確認する。ウイルスの入った銃弾はライフルに装着された弾倉の30発だ。銃弾は当たった衝撃で破裂する。感染有効濃度の距離は破裂中心より3メートルだ。つまり、ケルベロスの頭部で破裂させれば高濃度でウイルスを吸わせることが可能だと言える」
「現場上空です」
「各輸送機、降下開始」
左右のゲートが大きく開いた輸送機からNCBMが次々と飛び降りて行った。
「こちら第1小隊田沼。無線は問題ないか」
降下してすぐに、田沼が第2小隊の5番機に無線を送った。
『こちら第2小隊5番機渡辺、中継問題ありません』
『第2小隊1番機浜田です。指示をお願いします』
「まず、第1小隊で攻撃をして、進路を変えてみる。第2小隊は距離を取り待機。ケルベロスの進路が変わったところで攻撃開始。そのまま山中に誘導を行ってもらう。誘導時にはウイルス弾を使用」
『第2小隊、了解』
「第1小隊、いくぞ」
田沼はライフルの通常弾を確認すると、市街地に向かう5体のケルベロスに向け機体を加速させた。
残りの4機がそれに続く。
やがて木々をなぎ倒しながら走る5体のケルベロスがモニター越しに確認できた。
「大下と山下は最後尾のケルベロスを狙え。自分と川島は右端だ」
『了解』
田沼は機体をジャンプさせると右端を行くケルベロスにライフルを向けた。
すぐに田沼に気付いたケルベロスが向きを変え攻撃態勢をとった。
田沼のライフルが銃弾を放つ。ケルベロスは予測したようにそれを避けた。
さらに川島がケルベロスに向けトリガーを引く。
銃弾は全て命中しているが、それでケルベロスが消えることはない。
ケルベロスは川島を目標として捉え、右腕を振り上げながら迫った。
川島が後方に大きくジャンプする。
『進路が変わった。あとの誘導は任せます』
『浜田、了解。堀田、続け』
大下と山下の狙ったケルベロスも進路を変えていた。
『佐藤、田原、誘導を開始しろ』
『了解』
進路を変えた2体のケルベロスを引きつけるように第2小隊は攻撃を始めた。
残りの3体のうち2体が自ら進路を変え、田沼たちに迫った。
「このまま後退しつつ引きつける」
『第2小隊浜田。ケルベロスの誘導に成功。このまま集団に向かう』
「田沼了解。我々もこのままケルベロスを誘導する」
『残り1体はどうします』
川島が聞いてきた。
「この場を離れると、こいつらがまた市街地に向かう可能性がある。あとは独立遊撃部隊に任せよう」
『了解』
先を行く1体のケルベロスはすでに目視できないほど離れていた。
幸いなことに、4体のケルベロスは第1、第2小隊を追うように元の集団へと近づいた。
「各機、このままウイルス散布部隊に合流。散布を行う」
田沼はライフルの弾倉をウイルスの銃弾の入ったものに換装した。
ケルベロスの頭部に向けトリガーを引く。頭部に当たった銃弾は軽い音をたて破裂すると、ケルベロスの頭部を包むように霧状のものが広がった。
魔法攻撃と言われたこの作戦は、この場でケルベロスを倒す必要がない。ケルベロスの攻撃を避け、ただ銃弾を当てればよかった。
魔法攻撃とはこんなにも簡単なことなのか、と田沼は感じた。
それは生物兵器への恐怖でもあった。




