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なんでもありの世界


独立遊撃部隊本部 食堂


 パイロット3人と整備スタッフ6人が揃って食堂で夕食を済ませた後、大森は大野たち整備士4人とともに再び格納庫へ向かった。

 過去の戦闘での機体の損傷状況とそれに伴う整備記録を見たいと、大野たちからリクエストがあったからだった。

 「慧ちゃんは行かなくてよかったの?」

 食後のアイスコーヒーを飲んでいる市ノ瀬が、プリンを食べている水瀬に聞いた。

 「あたしはその場にいてもいなくても一緒ですから」

 「慧ちゃん、人見知りだもんね」

 市ノ瀬は水瀬の気持ちを察したようだった。

 梅原もそれは分かっているようで、市ノ瀬の横で麦茶を飲みながら、そうだよね、と頷いた。

 水瀬は、あはは、と軽く笑った。

 「そーいえば、格納庫の隅のいつもお茶してた汚いテーブルの周囲が柵で囲まれてたけど、何、あれ?」

 市ノ瀬が思い出したように水瀬に聞いた。

 「あ、あれは、あの中以外は飲食禁止の柵です」

 「はぁ? なんで?」

 「万が一、機械や機体にこぼしたりしたら大変なことになるから、って」

 水瀬はちょっと寂しそうな表情でプリンをすくった。

 「そんな、ガキじゃないんだから、わかってるよね。忙しかった時は食べる暇もないからあの隅で食べたり、コクピットの中で食べながら作業したり・・・」

 「ダメですよ!もうコクピットで食べたり飲んだりしたら。ちょー怒られますから」

 市ノ瀬の言葉を遮るように水瀬が警告した。

 「人が増えたんだから、もう食事の時間が取れないなんてことはないよ。そうですよね」

 「そうだね」

 梅原がのんびりした口調で言うと、話をふられた報瀬が頷いた。

 そして、報瀬はアイスコーヒーを飲み干したグラスをテーブルに置くと、話題を変えるように聞いてきた。

 「ねぇ、ねぇ。みんなはさ、今回のケルベロスのことどう考えてる?」

 皆が一斉に報瀬を見た。

 「どお、って? どお?」

 市ノ瀬がどう答えていいかわからず、梅原に話を振った。

 「そもそも軍の人たちはどう考えているんですか?」

 梅原が冷静に返すと。

 「ああ、そっか。それからまず話すべきか」

 報瀬はそう言うと、軍や研究所の人たちはオカルトチックとかスピリチュアルとかの専門家じゃないから、理解に苦しんでいる。いっそ、ここのみんなの想像力の方が的を得た答えが出るかも、など先日速水と話したことを伝えた。

 「異世界転生モノを今の科学で考察することには無理があると・・・」

 梅原が納得するように言った。

 「そう言うことなら、いまだに中二病から抜け出せないあたしたちの方が向いているかも」

 市ノ瀬の発言に、水瀬はプリンの最後の一口を口に入れて頷いた。

 「報瀬さんが会話した未来の人の話だと、ケルベロスはその人たちが作ったってことですけど、そこからしてすでに十分SFですよね」

 梅原は、どうしたらそんなことができるのだろう、と首を捻った。

 「考察するにはそこが重要です」

 水瀬は空になったプリンの皿に、ごちそうさまでした、と手を合わすと話を続けた。

 「そもそも高次元の世界は、低次元の世界の人たちには全く理解できないので、そんな技術は想像すらできないものです。そのため、ものすごく斜め上をいく発想が必要かもしれません」

 「ああ、同じようなことを香織ねえさんも言ってた」

 「だったら無理・・・」

 市ノ瀬は考えをもう諦めた様子だった。

 「でも、最後にケルベロスを消すって言ったんですよね」

 「言った」

 梅原の問い報瀬がすぐに答えた。

 「消すと言ったのにケルベロスが出てきているのは、消し忘れってこと?」

 市ノ瀬が言う。

 「忘れたって言うよりも、不測の事態で残ってしまったんじゃないかな」

 梅原が答える。

 「じゃぁ、どこに残ったの?」

 「ケルベロスがいたとこ、かな?」

 「そんなの答えになってないじゃない」

 「・・・」

  市ノ瀬と梅原の考察はそこで止まってしまった。

 「異世界転生モノの発想をすれば、ケルベロスはまさしく異世界に生まれ、そしてそこに残ってしまっているんじゃないでしょうか?」

 「え~、いきなり異世界?」

 水瀬の考えに市ノ瀬が異議を唱えた。

 「でも、未来の人たちがケルベロスを作って、それが今の僕たちの世界に出てきたってことは、何か両方をつなぐものが存在するはずだよね。だったら、それが異世界なんじゃないのかな。僕たちの次元じゃ結局そんな発想しかできないんだよ」

 梅原が言うと、水瀬は、うん、うん、と何度も頷いた。

 「そう考えれば、どこからともなくケルベロスが出現してきてることの説明がつくね。その空間が日本だけに繋がっているから、今回は日本にしか出現しないってわけか」 

 そう言いながら報瀬は、あとで速水に話そうと記録を取っていた。

 「でも、日本限定だけど、日本のあちこちに出るのは?」

 梅原が聞いた。

 「きっと、出口がフラフラしてるんですよ。案外その異世界は、なんでもありの空間かもしれませんよ」

 「なんでもあり?」

 水瀬の自信ありげな言葉に、市ノ瀬が聞き返した。それに答えたのは報瀬だった。

 「なんでもあり的な空間か・・・。あたしたちが考えつかないような概念が存在する空間、もしくは何も概念が存在しない空間。その空間に存在し以前とは違う何か斜め上をいくケルベロスを生み出す生殖個体。まさしくそれかもね。おもしろいよその考え方」

 自分の考えが広がっていくことに、水瀬はちょっと嬉しかった。

 「大学の研究テーマにどうです?」

 「ああ、いいかもね」

 全員が何か凄いものでも発見したような気持ちになった。

 「あ、大きな疑問・・・」

 市ノ瀬が突然気付いたように言った。

 「ケルベロスのことはいいとしても、未来の人はどうして直接この世界に出て来なかったの?」

 「それは、出来なかったんじゃないでしょうか。タイムパラドックス的な問題で」

 「タイム・・・」

 水瀬から出た単語の意味がわからず、市ノ瀬は梅原に助けを求めた。

 「過去に行った人がそこで自分の両親を殺した時、自分はどうなるのか、みたいなことだよね」

 「どうなるの?」

 「両親がいなくなるんだから、自分だって消えるでしょ。そうなると話がややこしくなる。それがタイムパラドックス・・・、だよね」

 梅原が水瀬を見ると、そんな感じです、と水瀬がうなずいた。

 「その割には、干渉が大胆だったけど」

 「直接手を下さないってとこがミソなんじゃないかな」

 報瀬が言うが、市ノ瀬はあまり納得できていない様子だった。

 「じゃぁ、どうして未来の人は報瀬さんとだけ会話ができたの?」

 「なんでもありの空間だからですよ」

 水瀬の言うなんでもありの空間は、妙に説得力があった。

 全員がそのなんでもありの空間を想像した。しかし、低次元の者たちに想像できるはずもなかった。

 「あ~、報瀬さんが時々見るって言ってた不思議な世界って、この空間なんじゃないですか?」

 市ノ瀬は重大な発見をしたように言った。

 「なんですか、それ?」

 水瀬がキョトンした表情で聞き返した。

 市ノ瀬は他のみんながそのことに関して知らなかったことに戸惑いながら報瀬に視線を向けると、報瀬はその不思議な世界のことを簡単に説明した。

 「未来の人がその空間にいて、なんらかの理由で報瀬さんもその空間に入ったことによってたまたま会話が出来た。その時の記憶が報瀬さんの中に残っているんですよ」

 市ノ瀬は自分の考えに自信を持って言った。

 「十分な説得力ですね」

 そう言って水瀬が頷くと、梅原も合わせて大きく頷いた。

 「まぁ、あたしのことは置いておいて、あたしたちの最終目標は、そのなんでもありの空間への出入り口を探し出し、その中にいる生殖個体を倒すことだね」

 報瀬がまとめた。

 「その出入り口はどうやって見つけよう・・・」

 市ノ瀬は腕を組んで考え込んだ。

 「存在すると仮定したなら、あとは科学の力でやってもらうしかないと思います」

 水瀬が報瀬に視線を向けながら言った。

 「そうだね。てか、このことを香織ねえさんに話すつもりだったけど、内容が盛り沢山だから上田さんにまとめてもらおっと」

 報瀬は、速水に直接話すときっとレポートを出せと言われるような気がした。

 「よーし、やる気が湧いてきた」

 「異世界か・・・」

 「なんとも不思議な響きですね」

 3人はそれぞれの思いを好き勝手に話し出した。


 異世界の記憶・・・、か。確かに、そうも考えられるけど・・・

 報瀬は、何故か感覚的に少し違うような気がしていた。


 

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