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藤代加代


NCBM独立遊撃部隊本部 格納庫


 独立遊撃部隊本部には元々数名の整備スタッフがいたが専門は戦闘機や輸送機で、NCBMの高度な整備は大森と水瀬の二人だけで全て行っていた。

 過去のNCBMの出撃時にはスポット的に専門整備士が配置されることはあったが、それが終わればまた大森と水瀬だけになった。

 今回、独立遊撃部隊のNCBMが3機になったことで、長野のNCBM基地から大野を含め4人が正式に配属された。その全員がNCBMの整備に必要な高度なスキルを持っていた。


 戦闘後の3機の整備が終わったのは夕方近くだった。一時は大型整備機器の段取りが悪く整備が滞ることもあったが、なんとか予定の時間に終わり皆がほっとしていた。

 「みなさん、休憩しませんか?」

 大森が新しく配属された整備スタッフに声をかけると、格納庫の隅に隠すように置いてある冷蔵庫から缶のジュースやコーヒーを持ってきてボロボロの作業台に並べた。

 新しい3人の整備士は、戸惑った様子で大野の顔を見た。

 以前の軍の施設では格納庫の隅で休憩し、しかもジュースを飲むなんてことはあり得ないことだった。

 大野は笑って頷いていた。

 3人と大野は、大森が運んできた適当な椅子に座った。

 すると今度は水瀬がどこからともなく段ボール箱を持ってくると、中からお菓子の袋を取り出し、どうぞ、と少し緊張気味に作業台に広げた。

 「大野さんをはじめ皆さんにいてもらって、本当に助かりました」

 小さな脚立に座った大森が、大野に飲み物を勧めながら言った。

 「いや、そんな・・・」

 大野は缶コーヒーを手にした。

 「やっぱり3機になると、段取りを考えないとスムーズにはいかないものですね。今日は還流液の交換があったので、外部循環装置の順番が合わなくて困っていたところを大野さんの指示でスムーズに作業が回りました」

 そう言いながら大森はまだ飲み物を手にしていない3人に取るように促した。

 水瀬は大野の顔をチラリと見ながら、すでにクッキーを口にしている。

 「あたしも水瀬さんも整備中はそれに集中しちゃって、周囲のことを気にできなくなるんですよね。だから、機体も増えてスタッフも揃うと、やっぱり全体を見ることができる人が必要だなって思いました」

 水瀬は、うん、うんと頷いていた。

 自分がいることでこの二人がもっと仕事に集中できるのなら・・・。大野は、2番機のコクピットで作業をしながら、時折ハッと思い出したように周囲を確認していた水瀬の緊張した顔を思い出した。

 その時、二つ目のクッキーに手を伸ばした水瀬と目が合った。

 水瀬は一瞬手を止めたが、すかさず大野もクッキーに手を出したことで安心したのか、そのままクッキーをとった。

 「ところで、いつもこんなふうに休憩するんですか?」

 レモンスカッシュを一口飲んで、古手川厚が大森に聞いた。

 「ずっと、慧ちゃん、あ、水瀬さんと二人きりだったので、仕事が終わったあとはいつもここで整備の勉強をしてたんですよ。そうなるとどうしても何か飲んだり食べたりしたくなっちゃって・・・」

 大森は、あはは、と恥ずかしそうに笑いながら続けた。

 「パイロットも高校生だったから、上が気を使ってかここは割と自由な感じなんです」

 梅原たちの身分は当初完全に伏せられていたが、今は軍内部ではある程度知られていた。

 「でも、実績から考えると、ここはもっと堅苦しいところかと思っていました」

 やっと緊張が取れた様子の城山学がそう言うと、ポテトチップスに手を伸ばした。

 「あの、いくら隅の方だと言っても、わたしは格納庫で飲食をするのはよくないと思います。万が一、機械にこぼしたりしたら」

 新しいメンバーの唯一の女性である藤代加代は、はっきりとした口調で言った。

 大森は飲もうとしていた缶コーヒーの手を、水瀬はクッキーを噛んでいた口の動きを思わず止めた。

「まさか、コクピット内でもしてるなんてことないですよね」

 藤代はなぜか水瀬に目を向けた。

 水瀬は反射的に首を小刻みに横に振ったが、頭の中ではケルベロスの巣に降りたときに市ノ瀬と一緒にコクピットの中でクッキーを食べた記憶が浮かんでいた。

 「まぁ、藤代はそう言ったところは厳格だからな。しかし、この部隊はしっかりとした成果を出している。まずはここでの環境でやってみることだ。郷に入っては、というだろ。自分のやり方を考えるのはそれからだ」

 大野は場を和ませるように、声を出して笑った。しかし、すぐに考える様子を見せた。

 「あ、そうだ。藤代はいっとき戦闘機に乗ってたことがあったな。どうだ、わたしの代わりに輸送機に乗ってみないか」

 大野の突然の予期せぬ提案に、藤代は驚きの顔を大野に向けた。

 「ここの輸送機は戦闘機並みの動きをする。正直なところ、わたしは怖さで足が震えてしまった。こんなんじゃ輸送機内での整備はとてもじゃないが出来ない。部隊長に藤代のことを進言してみる。どうだ、やってみないか」

 藤代は他の二人よりも2期先輩にあたるので、輸送機に乗る順番からしたら特に異論が出ることはない。

 「はい。やらせていただきます」

 藤代は嬉しそうに返事をし、そのまま大森と水瀬に視線を向けると、お願いします、と頭を下げた。

 「あ、こちらこそ、よ、よろしくお願いします」

 「・・・します・・・」

 二人は少々強張った笑顔を藤代に返した。


 次の日、上田のもとに整備のシフト表が古川経由で届いた。

 0番機担当整備士、大森久実子、古手川厚

 1番機担当整備士、藤代加代、大野潤一

 2番機担当整備士、水瀬慧、城山学

 先に名前の書かれたものが輸送機に乗って現場での整備を担当する。




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