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それぞれの想い~水瀬と大野


NCBM独立遊撃部隊本部 格納庫


 「水瀬さん。確認お願いします」

 1番機のコクピットからの声に、水瀬はすぐにリフトに乗った。

 コクピット内では、機体のシステムに端末を繋いだ大野潤一が稼働データの確認をしていた。

 水瀬は大野から端末を受け取ると、画面に目をやった。

 大野は新しい3機のNCBMの稼働のタイミングで、整備部門チーフとして3人の若いスタッフとともに長野NCBM部隊より正式に配属されていた。いわば井桁靖志が長野に移ってからの弟子であり、水瀬慧のことは聞いて知っていた。

 「はい、これで問題ありません。システムの学習は必要ないので消去していただいて構いません」

 水瀬は、ありがとうございます、と頭を下げ端末を大野に返した。

 「ちょっと驚いたのですが、戦闘での激しい動きのわりには思った以上に消耗箇所が少ないですね」

 「ああ、梅原君は機体の扱いが丁寧ですから。報瀬さんも同じかな。それと比べると、市ノ瀬さんの2番機はちょっと消耗率が高いです。でもそれは市ノ瀬さんが雑に扱っているからじゃないですよ。なんてゆーか、とんでもない動きをするんですよね。いい意味で。なので、消耗パーツの交換時期なんかもみんなそれぞれ微妙に違うんです」

 そこで水瀬はハッとしたように固まった。

 「ごめんなさい。なんか偉そうなこと言ってしまいました」

 そう言ってペコリと頭を下げた。

 「あの、先ほどのも頭を下げられましたが、水瀬さんはこの整備部門で大森さんの次に偉いんですから、我々に頭を下げる必要はないですよ」

 大野は少々困ったような表情で言った。

 大野の年齢は軽く水瀬の倍以上あったが、あくまでも整備部門の階級は大森や水瀬の下なのだ。

 「え~、でも・・・」

 水瀬も困った顔を大野に向けた。

 「わたしは井桁さんからここへの転属を言われたとき、正直嬉しかったです。これは大森さんにも話したことなんですが、一緒に配属された若い奴らはみんなこの部隊を希望して高い倍率を勝ち残ってここに来たのです。確かに井桁さんは水瀬さんのお父さんに教えられただけあって、NCBMの整備に関しては優れた腕をお持ちです。しかし、大森さんや水瀬さんもそれに匹敵するくらいのスキルを持っている。あの激しかった戦闘をたった二人で2機の機体を稼働させ続けた技術は並大抵のものではありません。特に、水瀬さんが地下でL2の神経を繋いだのは伝説になっているくらいです」

 「あ、そ、そんな・・・」

 水瀬は縮こまるように体を固くさせ、そして俯いた。自分がそんなふうに見られているなんて、思ってもいなかった。それに、ここは軍の人から見たらかなり規律がいい加減なところだ。こんなとこを希望したなんて。それを知ったらがっかりするのではないのか、いや待て、逆に厳格な軍のルールによってこれから運営されるということなのだろうか。水瀬は目の前に立ちはだかる暗雲を感じていた。

 「いや、すみません。かえって緊張させてしまいましたね」

 水瀬の様子の変化に気付いた大野は申し訳なさそうに頭を下げた。

 「でも、こんな言い方はお嫌いかもしれませんが、さすが、水瀬先生のお子さんです」

 その言葉は、素直に嬉しかった。

 「そんなわけで、若い連中を、いや自分も含めてしごいてやってください」

 この言葉は嬉しくなかった。

 水瀬は小さな頃から引っ込み思案だった。幸いなことにリーダー的な子がいつも水瀬のそばにいてくれたのでいじめられるようなことはなかったが、自分から何か言葉や意見を言うこともなくただその子の後をついているだけだった。

 そして、父親が亡くなり、NCBMの適性が見つかると研究所に入所した。始めは大人ばかりの環境に、一段と水瀬は殻に篭るようになった。

 その後、梅原と出会って初めての出撃。大森との出会い。市ノ瀬との出会い。独立遊撃部隊との出会い。その中で、少しずつ水瀬は自分を表に出すことが出来るようになってきた。

 そう出来たのは、まさしく独立遊撃部隊の環境が、水瀬に合っていたからだった。

 こじんまりした部隊でよかったのにな・・・。

 水瀬は好きだったこの部隊が、すでに過去のものになってしまったような気がしていた。

 そして・・・。

 ひょっとして、これからは気軽にお菓子を食べられなくなるのかな・・・、水瀬はポケットの中に入っているクッキーのことが気になった。


 


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