それぞれの想い~梅原と市ノ瀬
NCBM独立遊撃部隊本部 食堂
報瀬と別れたあと食堂にやってきた梅原と市ノ瀬は、すみのテーブルで梅原はホットドッグを、市ノ瀬は野菜サンドを向かい合って食べていた。
「やっぱさぁ、一度身につけた感覚ってしっかりと覚えているものね」
市ノ瀬は4つあったサンドイッチの最後の一つを手にした。
「うん。そうだね」
そう応えて、梅原はホットドッグの残りの一口を口に放り込んだ。
「機体の性能って上がってるよね。加速よかったし、ジャンプの距離も出てた」
「うん。大森さんがそんなんこと言ってたよ」
「ところでさぁ、梅原君はやっぱり軍の大学いくの?」
市ノ瀬は右手にサンドイッチを持ったまま左手でアイスコーヒーのグラスを持つと、ストローを啜った。
「ああ、それなんだけどね・・・」
梅原は気の抜けたような言い方で言葉を返した。
「何かあったの?」
「古川さんにも大学どうするんだ、って聞かれたんだよ。で、軍の大学に行くつもりですって言ったら、やめとけって即答された。隣にいた遠藤さんも、合わないだろうな、って。なんでかな」
市ノ瀬は、もっともだ、と思った。
「梅原君ってさ、学校でのお昼ご飯はいつも教室の隅とか誰も来ない屋上で一人で食べてたり、授業でグループにならなきゃいけない時は誰も声かけてくれなくって結局残った人たちでグループになったり、休みの日は誰かとどこか遊びに行くこともなく一人部屋こもってゲームしてる、ってことない?」
「よくわかったね。そんな感じかな」
「あのね、軍の大学って、全員が寮生活なんだよ。みんなで起きて、みんなで食事して、みんなで掃除して、みんなでお風呂入って、みんなで寝るんだよ。梅原君はそんな集団生活に耐えられる?」
梅原は市ノ瀬の言った言葉を反芻した。言葉が繰り返されるごとにその表情は強張っていった。
「きっと、梅原君をよく知るヒト全員が、古川さんたちと同じこと思ってるよ」
梅原は教室の隅で一人昼食を食べるのも、声をかけてくれる友達がいないのも、休日に一人で過ごすことも、全然嫌なことではなかった。むしろそれでよかった。学校は集団生活ではあるが、逃げ道はたくさんあった。しかし、軍の寮に逃げ道はあるのだろうか。梅原は恐怖を感じた。
「てかさ、梅原君はどうして軍の大学に行こうと思ったの?」
「そんなの決まってるよ、みんなを守るため」
それを聞いて市ノ瀬は、一瞬鼻で笑ったようだった。
「よし、その若さゆえの過ちのような歯の浮く台詞を、梅原君の強い意思として受け入れよう」
市ノ瀬は手に持っていた潰れかけのサンドイッチを口に押し込むと、アイスコーヒーで流し込んだ。
「ところで、梅原君はこの独立遊撃部隊で何をしてきた?」
「何を、って・・・」
市ノ瀬は思い通りの返事が出てくるのを待った。
「ケルベロスを倒してきた」
それじゃない、と市ノ瀬はちょっとがっかりした。
「で、それはどーいうこと?」
「世界が平和になった、って感じ?」
「そーじゃなくって」
市ノ瀬は、梅原が思い通りの返事をしないことにイライラし始めた。
「なんだろ?」
「みんなを守ったんでしょ!」
埒が明かないっと悟った市ノ瀬はとうとう自分からその答えを言った。
「みんなを守ったのに、梅原君は軍の大学に行ってた?」
市ノ瀬は下から睨みつけるように梅原に迫った。梅原は狼狽えた。
「少なくとも梅原君は今のこの状態で、誰一人欠けることなくこの部隊のみんなを守ったんだよ。だから、梅原君にとって軍の大学に行くってことは、みんなを守るための必須項目じゃないってこと」
梅原はぽかんと口を開けたまま固まっていた。
市ノ瀬は残っていたアイスコーヒーを、満足そうな表情で一気に飲み干した。




