それぞれの想い~報瀬と速水
作戦終了後、独立遊撃部隊輸送機は本部に無事に帰還した。
報瀬たちパイロットは、機体の整備のために輸送機から格納庫のハンガーへNCBMを移動させた。
コクピットを開け外に出る。下を見ると、いつもよりも整備スタッフが多いことに気づいた。
「あとはやりまーす。先に上がってください」
リフトで下に降りると、水瀬が報瀬たちに声をかけた。
「え? どー言うこと。整備手伝うよ」
「たくさんのスタッフを揃えてもらいましたから、パイロットの皆さんは手伝わなくていいですよ」
水瀬はすでに整備を始めているスタッフに視線を向けた。
奥で大森が指示を出している。
以前は人員も少なく、戦闘後はみんなで整備をしていた。それが今は、以前よりも多くのスタッフが動き回っている。
これが、遠藤の言っていた独立遊撃部隊の評価なのか、と報瀬は思った。
「待遇が良くなったって感じですね」
梅原が感心するように言った。
「ちょっと寂しい気もしちゃうけど・・・」
整備を手伝う気が満々だった市ノ瀬が残念そうに言った。
それでも3人は何か手を貸してと声を開けられることを期待してしばらく様子を見ていたが、全くその気配がないことにその場を離れた。
「どうする、これから」
先を歩く報瀬が梅原と市ノ瀬を振り返り聞いてきた。
「整備の人たちには悪いけど、あたしお腹空いちゃった」
「僕も」
「じゃぁ、食堂で何か食べよ。あ、その前に着替えなきゃ」
パイロットスーツの3人は更衣室へと向かった。
すると、報瀬の携帯端末の呼び出し音が鳴った。
「あ、香織ねえさんからだ。きっと長くなると思う。二人で行って、ごめん」
「はーい」
市ノ瀬が手を振った。
報瀬は今来た廊下を戻るように方向を変えると、歩きながら通信を開いた。
「報瀬です」
『今、大丈夫?落ち着いた?』
「整備を手伝うつもりだったんだけど、スタッフがいっぱいいて、あぶれて暇してる」
『戦闘で働いたんだから、当たり前でしょ。で、体はどお?』
「どお?って、息苦しさのこと?」
『それもあるけど、ブースターは使ってるの? 機体に乗ってる時は機体自体がブースターの役割をするけど、降りてる時は全く増幅されないから』
「全然大丈夫だよ。この体を使い始めた頃は無接点神経接続の距離感みたいなモノを感じていたんだけど、今はもうそんな概念自体なくなったって気がする」
報瀬は、いつの間にか外の訓練場を見渡せるバルコニーに出ていた。パイロットスーツの胸を開ける。心地よい風が汗で首筋に張り付いていた髪を乾かしてゆく。
『まぁ、何がそうさせているのかわからないけど、油断しないでね。知らないところで突然接続が切れて倒れたところを病院に運ばれたら大騒ぎになるかもしれないから』
「だね」
本当にそんなことにでもなったら、何も知らない病院のドクターは慌てるだろうな、と報瀬は可笑しくなった。
『じゃぁ、息苦しさは? 戦闘ではかなり活躍したみたいだから、鬱憤ばらしが出来て息苦しさもなくなったとか』
「どうかなぁ。息苦しさがなくなってスッキリ、なんて感じはないかな」
『そっか、何か変わるかと期待したんだけど』
「息苦しさを感じ出したのと距離感を感じなくなったのは同じくらいの時期だったような気もする。何か関係してるのかなぁ・・・。でも、よくわかんないや」
『わたしたちとは異なる報瀬の感覚を理解するのは難しいけど、だからと言って投げ出すわけじゃないからね』
「心配してくれて、ありがとう」
『そうだ。いいアイデアありがとね。魔法攻撃作戦は着々と準備が進んでる。ひょっとしたら今度は巣もたたけるかもしれないって』
「だよね。巣を叩かなきゃ、いつまでたってもケルベロスが沸き続けるもんね。ところで、あいつらってどっから出てきてるの?」
『それがわかればね』
「ケルベロスは消えるって言ってたんだけどなぁ」
『ああ、未来のヒト?』
「こんななら、もっと詳しく聞いておけばよかった。また会えないかなぁ」
『そうだね。もしも話ができれば、一気に解決するかもね』
「だったら、今度はあたしが未来に行けないかな。過去に行けるくらいなら未来にも行けるよね」
『それは無理。そんな技術はないから』
「でも、その技術は未来には確実に存在するんだよね」
「確かにそうなんだろうけど、例えばさ、100年前の人に、こんなふうに距離を隔てて会話できるなんてこと考え付かないでしょ。それと一緒。今のわたしたちには未来の技術のそのかけらも発想できないんだよ』
「そっか・・・」
あたしの息苦しさがうまく説明できないことと一緒なのかな・・・。
『そういった類のものって、今の時代じゃまだオカルトチックとかスピリチュアルとかの扱いだから、軍の中に専門家がいるわけじゃないし、かといって自称専門家に意見を求めるのもねぇ・・・。案外さぁ、この間の魔法攻撃の発想みたいに、そっちのみんなの方が解き明かすような道を開けるかもね』
「ああ、なるほど、そうだね。今度みんなに聞いてみるよ」
『まぁ、無事で安心したよ。じゃぁね』
「うん、ありがと」
通信を終えた報瀬は端末をポケットに入れると、大きく背伸びをした。
風を感じる。
「ああ、気持ちいい・・・」




