チュートリアル
魔法攻撃作戦の会議から3日後 早朝。
緊急出動要請を受けた独立遊撃部隊輸送機は滋賀の本部を飛び立った。
「再び鳥取砂丘にケルベロス出現とのこと。数は20。現在、市街地に向かって移動中」
NCBMの出撃準備をする輸送機格納庫内に、上田の声が広がった。
「0番機、準備完了。報瀬さん、乗ってください」
ヘッドセットをつけた大森が、格納庫の端末でケルベロスの動きを確認していた報瀬に伝えるとリフトを下げた。
「ありがとうございます」
ヘルメットを持った報瀬が大森と入れ違うようにリフトに乗った。
リフトが上がる間にヘルメットをかぶる。
大森たちのヘッドセットに伝わる声がヘルメットを通して聞こえるようになった。
『大森先輩、1番機、準備できてます。最終確認お願いします』
『わかった』
報瀬がコクピットに入りシートに座ると、全周囲モニターが格納庫内を映し出した。
『市ノ瀬さん、乗ってください』
『梅原君もいいよ。乗って』
水瀬と大森が2番機と1番機のコクピットから出ると、リフトを使って下に降りた。
すぐに市ノ瀬と梅原がコクピットに上がる。
「学生のふたり、久しぶりだけど、ちゃんと動かせる」
梅原と市ノ瀬がヘルメットを被ったのを確認すると、報瀬は無線を送った。
『大丈夫です』
梅原の落ち着いた声がした。
『ちゃんと動かせまーす。てか、報瀬さんも学生でしょ』
「あ、そっか・・・」
市ノ瀬のツッコミに報瀬は笑った。
『間も無く、砂丘上空。降下準備。ゲート開きます』
輸送機にわずかな振動が伝わり、左右と後部のゲートが大きく開いた。
『今回、軍のNCBM部隊の出撃はない。我々のみだ。この出撃の目的はケルベロスの討伐ではない。ケルベロスが消えるまでの被害を最小限に抑えればいい。ケルベロスはかなり硬くなっていると予想される。無理はするな』
古川が今回の出撃の趣旨を伝えた。
「魔法作戦の準備が完了するまでの時間稼ぎのようなものだけど、まずはこれからの作戦のチュートリアルってことで、世界観に没入せよ!」
『了解』
ゲームの導入のような報瀬の言葉に、二人は笑いながら答えた。
遠藤が輸送機の高度を下げる。砂浜が迫った。
「0番機より、降下開始。自分のタイミングで降りろ」
古川の合図で機体を固定しているハンガーのロックが解除された。
「フェイクワン、降下」
報瀬は自分のTACネームを言うと、後部ゲートから飛び出した。
『梅干、出ます』
『ハグミミ、いっきまーす』
すぐに梅原と市ノ瀬の声がし、左右のゲートから2機のNCBMが降下した。
「時間制限は1時間。自由にやってって言いたいとこだけど、一緒に攻撃したほうが倒しやすいと思う」
深い砂の上に着地した報瀬は、足が取られないように背中のバーニアを使ってすぐにケルベロスに向けて加速した。
『報瀬さんに従います。いいね、市ノ瀬さん』
『りょーかーい』
二人も報瀬のあとに続いた。
「じゃぁ、まずこいつから。あ、いざとなったらあたしを盾にしていいからね」
報瀬は最後尾のケルベロスに照準を合わせるとトリガーを引いた。
報瀬の素早い動きに、回避が間に合わなかったケルベロスに銃弾が当たる。
すかさず二人も報瀬の銃弾が当たった場所に向けトリガーを引く。
ライフルのエジェクションポートから次々と薬莢が飛び出してゆく。
3人はケルベロスの動きに合わせて照準点がずれないようにトリガーを引き続けた。
モニターに表示されるライフルの残弾が一桁になったところで、ケルベロスは霧となって消えた。
「3人で狙えばマガジン1個でやれるね」
各々20数発打ち込んだことになる。
「次行くよ」
報瀬は弾丸の少なくなった弾倉を捨てリロードすると、次の目標に向かってジャンプした。
『ねぇ、なんだか、エイムが変だよね』
梅原がジャンプしながら聞いてきた。
「ああ、それ、強化オートエイム。そんなの切っちゃえ」
そう言いながら報瀬は飛びかかってきたケルベロスに向けトリガーを引いた。
『いらなかったら切ってって言われたでしょ。あたしとっくに切ってるよ』
市ノ瀬のライフルも銃弾を放つ。
『え~、どうやるんだっけ。あとで教えて』
梅原はうろたえた声を出したが、それでもエイムは正確だった。
すぐに2匹目のケルベロスが霧散した。
「次は・・・、これ!」
報瀬はジャンプしながらリロードすると、こちらに気づき向きを変えたケルベロスにライフルを向けた。
梅原もリロードするとすぐに報瀬の狙うケルベロスを捉えた。
梅原は格納庫で新しいこの機体を目にした時、前のように動かすことが出来るか少し不安だった。
しかし、コクピットに入った途端、その不安は綺麗に消えた。
そして今、以前にもましてこの機体は自分のモノだった。
持つだけの操作レバー、体を包み込むようなシート、滑らかなフットペダル。その感触はどれもが以前のままだった。
機体が新しくなってもコクピットの記憶はそのまま受け継がれていた。
『次、4匹目』
報瀬の声がヘルメットに響いた。
市ノ瀬は興奮していた。
ずっとNCBMに乗りたかった。
やっと乗れた。
あたしの機体・・・。
機体は新しくなっていても、コクピットは市ノ瀬を、市ノ瀬はコクピットをしっかりと覚えていた。
今回、独立遊撃部隊の本部で格納庫に入った時、どうして機体が3つあるのか不思議だった。
複製の関係で、コクピットは二つしか造れないと聞いていた。
そんな疑問を持ちながら梅原と一緒に機体を見上げていたら、横で報瀬が言った。
あたしの権限で複製したんだよ・・・。
不意にケルベロスが市ノ瀬に襲い掛かった。それを回避しライフルを向ける。
気付いた二人が同時に攻撃を始めた。
しばらくしてケルベロスは霧となった。
「補給コンテナ、落としてください」
報瀬は輸送機の大森に向かって無線を送った。機体のスロットの弾倉がなくなりそうだった。
『すぐ近くに落とします。当たらないでね』
シート前のモニターに補給コンテナのマーカーが現れた。
「あたしが引きつける。二人は先に補給して」
報瀬は落ちてきた補給コンテナを大きく避けるように機体を走らせると、ケルベロスにトリガーを引いた。
ライフルから薬莢が飛び散る。
「ひとりでやれるか?!」
空になった弾倉を素早く交換する。ケルベロスは動きを止めることなく報瀬に向かう。
報瀬は横に移動しながら再びトリガーを引いた。
報瀬のライフルは確実にケルベロスの一点を狙って当たり続けた。それでもまだケルベロスを消すには足らなかった。
モニターの残弾表示がゼロに近づく。もう、予備の弾倉はない。
報瀬は右手でライフルを撃ちながら、腰の刀剣に左手をかけた。
同時にライフルの銃声が重なり、ケルベロスが霧散した。
『補給完了、報瀬さんどうぞ』
報瀬を狙っていたケルベロスにトドメを与えた梅原と市ノ瀬は、報瀬から離れるようにケルベロスの集団に回り込んだ。
報瀬は大きくジャンプすると補給コンテナに取りつき、弾倉をスロットにはめ込んだ。
「3匹ごとに落としてください」
報瀬は大森にコンテナ追加のタイミングを知らせると、二人を追った。
3人は確実にケルベロスの数を減らしていった。
それは軍のNCBM部隊が戦っていたものと比べ動きが遅いわけではなく、確実に硬さのレベルは上がっていた。それでもケルベロスを倒すことが出来るのは3人のエイム力だった。ケルベロスの俊敏な動き、また自分自身の機体の動きに対しても、照準はぶれることなく一点を狙うことが出来ていた。
この出撃は時間稼ぎであって、ケルベロスの討伐が目的ではないと古川は告げていた。しかし、いつのまにか20体出現していたケルベロスは残り3体になっていた。
『やれるかな?』
『やるっきゃない』
梅原と市ノ瀬の声が聞こえた。
「もう、きっと時間ギリギリ。ここから自由行動」
報瀬はスロットの弾倉を全て打ち尽くすつもりでケルベロスにライフルを向けた。
梅原と市ノ瀬は報瀬に追従することなくそれぞれの獲物に向けてトリガーを引く。
「あ・・・」
そこで3体のケルベロスは一斉に消えた。タイムオーバーだった。
『あと少しだったのにぃ』
市ノ瀬が悔しそうな声を出した。
「でも、思ったより出来たね」
報瀬は満足そうだった。
『チュートリアル終了ですね』
梅原のほっとした声が聞こえた。
『ケルベロスの消失確認。お疲れ様。回収に向かいます』
上田の声とともに輸送機が降下を始めた。
ここまでやれるとは・・・。
輸送機で3機の戦闘を見ていた古川は感心するように呟いた。




