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1匹の重さ


 「まもなく出現ポイントに到達」

 NCBM部隊大型輸送機群は、新たにケルベロスの出現した鳥取砂丘へと向かっていた。

 「ケルベロス、レーダーに捕捉。数は50ほどです」

 「NCBM部隊、降下準備」

 先頭を飛ぶ指揮管制機の笹村が指示を出すと同時に、各輸送機の左右ゲートが大きく開いた。

 「目標、目視可能距離に到達」

 「30秒後、1番より順次降下開始」


 輸送機のゲートが開いたことにより、NCBMのコクピットの全周囲モニターに砂丘に蠢くケルベロスの姿が直接確認できた。

 「見た感じはオリジナルのケルベロスだな。結局、元の鞘に収まったってことか」

 1番輸送機内の第1小隊隊長田沼中尉が小隊内の無線を使って呟いた。

 モニターに映る今回のケルベロスは、特に見た目に変化はなかった。

 降下のカウントダウンが10秒を切った。

 「見た目が同じということは、動きも同じで俊敏だと思われる。この前までの鈍いやつとは違うと思え」

 『了解』

 『第1小隊射出』

 オペレーターの合図と同時に田沼の機体は輸送機から飛び出した。続けて2番機川島、3番機大下、4番機山下、そして早期警戒機能を持った5番機の大友が輸送機を離れた。

 それに続き、他の輸送機からもNCBMが次々と降下を始めていた。


 地表に降りた田沼は、すぐに背中の降下スラスターを排除するとケルベロスの群れに向けて加速した。

 背中のバーニアの噴射によって砂丘の砂が大きく巻き上がる。

 「砂が深い、足をとられるな」

 田沼は向かってきたケルベロスに引き金を引いた。

 その瞬間にすでにケルベロスはその位置にいなかった。

 「以前の動きに戻っている。速いぞ。連携を取れ」

 田沼の指示に、2番機川島は田沼の後方に、4番機山下は3番機大下のあとに続いた。

 再び田沼の機体に向けてケルベロスが腕を振り上げながら迫った。回避行動をとりながらライフルを撃つ。ケルベロスが瞬時にライフルの射線から離れた。すかさずその動きを予測した川島がトリガーを引いた。

 川島の放った炸裂弾はケルベロスに命中しその姿を爆煙で包んだ。

 後方で3番機を狙ったケルベロスに、同じように山下が命中させていた。

 「よし、この調子だ」

 『待て、ケルベロスが消えてない。気をつけろ!』

 後方で索敵を行っている大友の慌てた声が皆のヘルメットに響いた。

 爆炎の中から仕留めたはずのケルベロスが飛び出し、川島の機体に迫った。

 田沼はケルベロスの背に向けてライフルを撃った。

 それは確実に命中していた。しかし、今までであれば1発でも命中すればすぐに霧のように消えていくケルベロスが、何事もなかったようにそのまま存在していた。

 田沼は冷静に引き金を引き続けた。

 10発ほど命中したところで、川島の機体に覆いかぶさったケルベロスはやっと霧になった。

 「川島、大丈夫か?」

 『はい、問題ありません』

 『こちらもなんとか仕留めました』

 3番機の大下だった。

 その時、周囲で爆発音が響いた。火花とともに黒い煙が舞い上がった。

 『NCBMが苦戦している様子です。中破、大破機体も出ています』

 大友が緊張した声を出した。

 「大友、他の部隊はなんて言っている」

 『倒せない、硬い、といった声が聞こえます。所々でパニックに陥っています』

 早期警戒機能を持った大友の機体には全ての通信が捉えられるようになっている。

 『ケルベロス来ます!』

 大友が注意を促した。

 「3機で行く。4番機山下は5番機を援護」

 『了解』

 「俺が囮になる」

 田沼は迫ってくるケルベロスに向けて大きくジャンプすると、ライフルを向けトリガーを引いた。すぐにその後方からもう1匹のケルベロスが田沼目掛けて飛び上がった。

 田沼の攻撃を回避するケルベロスの動きを予測して川島がトリガーを引く。やはり命中しているのに消えない。川島はケルベロスの動きを追いながらトリガーを引き続けた。

 大下は遅れて飛び上がったケルベロスを捉えていた。トリガーを引き続ける。同時に田沼のライフルも炸裂弾を放った。

 『ケルベロス2体消滅』

 大友の声がした。

 「どんな感じだ?」

 田沼がふたりに聞いた。

 『10発以上は当てないと消えないって感じでしょうか』

 『俺もそう感じました。一か所に集中できればもっと少ない数で消せるかもしれませんが、あの動きで一点に集中させるのは至難の技かと』

 川島と大下の感想に、田沼も同じように感じていた。

 「つまり、今回は硬さを手に入れたということか」

 周囲で複数の爆発音がした。仲間の機体がやられているのだろう。

 「大友、できるだけ記録を取れ」

 『了解』

 「数を当てれば消せる。慌てず、確実にだ。行くぞ!」

 田沼は煙の立ち上る方向に向けて機体を加速した。他の4機もそれに続いた。


 

 「第5小隊、補給コンテナの射出要請」

 『4番輸送機、第5小隊の位置確認。直ちに射出』

 「第7小隊も要請。5番輸送機、可能か?」

 『5番輸送機、確認。射出』

 「中破機体への退避カプセル、順次射出」

 前回までの戦闘に比べ、指揮管制機内は慌ただしかった。

 「さらに1機大破。中破を含めると23機が戦闘不能です。今回はかなり苦戦しています」

 オペレーターが笹村を振り返った。

 「あとケルベロスは何体残っている?」

 「11です」

 ここで確実に仕留めなくては、この変異が有効だとわかれば大変なことになる・・・。笹村は大久保の話を思い浮かべた。

 「第1小隊、3体撃破」

 「第8小隊、1体撃破。しかし全機体行動不能」

 モニターの表示が次々に更新される。

 「第1小隊、さらに2体撃破」

 「第5小隊、1体撃破」

 「第6小隊、全機行動不能」

 「第2小隊、2体撃破」

 「第9小隊、1体撃破」

 「残り1体です。第1小隊が向かっています」

 第1小隊は田沼の部隊だった。田沼ならやってくれる、笹村は今回の変異でたまたま獲得したこの能力も、数多の確率の中に再び埋もれていくだろうと思った。

 「第2、第3小隊は第1小隊のサポートに回れ。行動可能な残りの部隊は損傷機体の救出および回収を行う」


 

 「左から回り込め。回収場所に向かわせるな」

 田沼は最後の1体のケルベロスに向かって、最大加速で機体を走らせていた。

 ケルベロスが田沼に気付いた。

 「俺がこのまま左から行く、川島は直進、大下は右だ」

 『了解』

 『ケルベロス向きを変えました』

 大友からの通信が入った。

 『離れていきます』

 ケルベロスは田沼たちから逃げるように移動していた。

 「逃すな。追うぞ」

 3人は機体をケルベロスに向け大きくジャンプさせた。バーニアを最大出力にし距離を稼ぐ。

 背を向け走るケルベロスを捉えた。

 田沼は空中で狙いをつける。他の2人もライフルを構えた。

 『ケルベロス消失』

 大友の声は、トリガーを引くよりも早かった。

 コクピットの索敵モニターにLOSTの表示が出た。

 「消えた。逃したのか?」



 「最後のケルベロス消失」

 指揮管制機の索敵システムも同様だった。

 「消失?!倒したんじゃないのか」

 笹村がオペレーターに確認を促した。

 「記録データ確認しました。第1小隊の攻撃前にケルベロスは消えています」

 「索敵を続けろ。全ての部隊の5番機に連絡。消失したケルベロスを探せ」




 その後、ケルベロスを見つける事はできなかった。

 1匹のケルベロスを逃したことが、この先どんな結果を生むのか・・・。

 笹村は胸の奥に湧き上がってくる大きな不安を感じていた。それは恐怖にも思えた。




長野県 統合軍NCBM部隊本拠地


 鳥取から戻った笹村は、すぐに統合軍本部の篠原に連絡を取り次に現れるであろうケルベロスの対策について話し合った。

 「戦闘記録から、今回の変異で約50%の防御力がアップしたとの結果が出ている」

 モニターに映る篠原は本部で計算された結果を笹村に伝えた。

 「すると次はさらに50%アップ。最初の倍の防御力になると考えればいいでしょうか?」

 「最も低く見積もって、と思った方がいいとのことだ」

 篠原の言葉に笹村は表情を曇らせた。

 「最悪の場合、50%アップの2乗の可能性もある。つまり、最初の2.25倍だ」

 「それだとマガジン1個分、30発ほどの弾を確実に続けて命中させる必要があるということですか・・・」

 笹村は、逃した1匹のとんでもない重さを感じた。

 「研究所の山内君からオートエイムの強化プログラムを試作中と連絡を受けた。これによって今までよりも一点に集中して当てやすくなるだろう」

 ケルベロスの体は大きい。動きは俊敏でもその体のどこかに弾丸を当てることは今となってはそう難しいことではなかった。しかし、一点に当て続けるとなるとかなりのスキルを必要とするのは明らかだ。笹村はオートエイムの強化プログラムに期待せざるを得なかった。


 それから、5日後。再び鳥取の砂丘にケルベロスが出現した。

 




鳥取砂丘上空


 「数は30です」

 指揮管制機モニターにケルベロスのマーカーが表示された。

 前回よりもややケルベロスの数は少なかったが、NCBM部隊にとっても機体の整備が間に合わず、出撃可能な機体は50機ほどと今までの半数でしかなかった。

 「ゲート開け。降下準備」

 笹村の命令がオペレーターから各輸送機へと伝わり、 NCBM部隊の降下準備が開始された。

 「弾切れを起こさせるな。NCBMの移動先を読んで補給コンテナを落とせ」

 「降下位置に到着」

 「よし、降下開始」


 第1小隊田村は、降下しながら砂丘を移動するケルベロスの1匹に照準を合わせた。相手はまだ田村に気付いていない。

 トリガーを引く。

 田沼は自分の意思とは関係なくライフルが動く感触を得た。オートエイム強化プログラムの効果だ。これによって、打ち出された弾は確実にケルベロスの背中の一点に向かった。

 コクピットシート前の小型モニターに弾薬の消費が表示される。

 不意を突かれたケルベロスは田村の放った銃弾を全て受けて霧散した。

 すぐに田沼の機体の降下スラスターが作動し着地した。

 「1体撃破。オートエイム強化プログラム作動の射撃で28発消費」

 田沼はすぐに笹村へと通信を送った。それはすぐに各小隊へと伝えられるだろう。

 「前回と同様、3機で行く。4番5番はサポートを頼む」

 『了解』



 戦闘開始から1時間後、撃ち残した17体のケルベロスは、前回と同様、突然砂丘から消失した。

 NCBM部隊の損害は、大破15、中破20。まともに動けるものはわずか10機ほどだった。

 今回も逃してしまった。

 それはさらに強化された変異体が現れることを示唆していた。

 統合軍は窮地に立たされた。


 統合軍本部長大川は、主要幹部を集め緊急会議を行った。

 しかし、統合軍の中では、もはや窮地を脱する方法が見つかることはなかった。



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