59 罰ゲーム(上)
本革ソファのクッションが、二人の体重に耐えかねて深く沈み込んでいた。
千野の両腕は、奏の頬のすぐ両脇をしっかりと押さえつけている。少年特有の風呂上がりの熱気を帯びた身体が、ソファの隅のただでさえ狭い空間を完全に封鎖していた。
奏はその下敷きになり、背中をひんやりとしたレザーにぴったりと押し付けられている。
身動きできるスペースは目に見えて限界まで圧縮され、少しでも首を傾げれば、髪の毛が柊斗の腕の内側に擦れてしまう。逃げ場のない状況下で、彼の視線は否応なく上を向くしかなかった。
視界のど真ん中には、湯気に火照った柊斗の顔がある。
普段はいつも派手に逆立っている金色の短い髪が、今は濡れて大人しくなり、数筋の髪がなめらかな額の前に少し乱れて垂れ下がっていた。
照明が彼の横顔を照らし、その濃く長いまつ毛の一本一本をくっきりと浮かび上がらせる。
少年がわずかに顔をうつむかせる動作に伴い、長いまつ毛が彫りの深い目元に細やかな半月状の影を落とし、淡い色の瞳に宿る感情の一部を隠していた。
この下から見上げるアングルでは、奏の視線は必然的に相手の裸の上半身をなめるように走ってしまう。
普段、ダボッとしたパーカーやジャージを着ている時の柊斗の骨格は、高校生特有の背が高くて華奢な、いかにも少年らしい雰囲気を帯びている。
だが今、衣服という遮るものを失ったその筋肉のラインは、ひどく鮮明だった。
いたずらに色気がある、とさえ言える。
肩幅が広く腰が細いその体型は、非常にプロポーションが良い。まっすぐな鎖骨の下には、薄くはっきりとした胸筋の輪郭がある。呼吸の上下に合わせて、無駄な肉が一切ない腹部を伝って筋肉のラインが伸び、最後はスウェットパンツの縁に隠された浅い窪みへと吸い込まれていく。
柏木奏は生唾を飲み込んだ。喉が妙にカラカラに乾いている。
それにしても、この至近距離から見上げるアングルは、控えめに言ってもヤバすぎると認めざるを得ない。
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奏の思考は突如として、数時間前のテニスコートの外へ飛んだ。気温38度の猛暑の中、日傘をさしてフェンスの外で狂ったように黄色い声を上げていたファンクラブの女子たちだ。
彼女たちが興奮気味に、テニスコートでの千野柊斗の隠し撮り写真をクリアカードやアクリルスタンド、ポスターなどの各種グッズに特注しようと話し合っていたのを、彼ははっきりと覚えている。
奏の脳裏に、前触れもなくある馬鹿げた考えが浮かんだ。
『もし目の前のこの限定アングルの光景を写真に撮って、スマホのロック画面の壁紙にでもしたら……あの熱狂的なファンクラブの中で、血で血を洗う戦争が起きるんじゃないか?』
「違う違う違う……」
奏は心の中で激しく首を横に振り、この馬鹿げていてヤバすぎる考えを無理やり頭から追い出そうとした。自分は生粋のハードコア・アクションゲーマーだぞ。なんでこんな気まずい瞬間に、乙女ゲームのグッズなんかを連想してるんだ?!
彼がそんな風に気を取られていたほんの数秒の間に、上の顔はいつの間にかさらに数センチ下へと迫っていた。
奏の目から、柊斗の瞳に映る少し慌てた自分の姿がはっきりと見えるほどの至近距離だ。
「ど、どけよ」
柏木奏は、喉の奥から絞り出された自分の声に、隠しきれない震えが混じっているのを聞いた。この軽々しい抗議は、何の威嚇にもならないどころか、まるで壁際に追い詰められたハムスターが発する無力な虚勢のようだった。
千野柊斗は動かなかった。
彼はその圧倒的な威圧感のある姿勢を保ったまま。数滴の水滴が毛先に集まり、今にも落ちそうに揺れている。
「前にも言ったよな」柊斗の声は低く少し掠れており、風呂上がりの気だるさを漂わせていたが、その口調はひどく冷ややかだった。「コートでは、大人しく俺だけを見てろって」
その話題が出たことで、奏は反論する気力を少し取り戻した。彼は視線をそらさないよう努め、その淡い色の瞳を正面から見据えた。
「見てたさ、ずっと見てた。お前のスイングの角度までしっかりこの目で見てたぞ」
「嘘つき」
柊斗はわずかに眉をひそめ、元は静かだった瞳の奥に不機嫌な色が渦巻いた。
ついに持ちこたえられなくなった一滴の水滴が彼の金髪から滑り落ち、「ポタッ」と奏の鎖骨に直撃し、小さな冷たい震えを引き起こした。
「日向駆のチートツールになる暇があって、コート脇からアイツにトスを下げるようアドバイスして俺のリズムを崩させたってことは、明らかに俺を見てる気がないってことだろ」
柊斗は自分の下にいる人間を見つめ、ゆっくりと、しかし断固とした口調で言った。
「あんたの意識は、全く俺に向いてなかった」
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図星を突かれた奏は、後ろめたさに顔を背け、ソファのクッションの隙間に視線を落とした。
「いつまでもその話にこだわんなよ……」彼は小声でぼやき、時間稼ぎの戦術で誤魔化そうとした。「ただの普通の練習試合だろ。それに俺だって適当に言っただけだし、お前が本当に取れないなんて誰がわかるんだよ……」
言い終わらないうちに、突然頬がむぎゅっとつねられる鈍い痛みが走った。
柊斗は片手を空け、薄いタコのある指の腹で、容赦なく奏の頬の柔らかい肉をつまみ上げたのだ。
彼の指の温度は少しひんやりとしていたが、奏の温かい肌に触れると、なんとも言えない戦慄感をもたらした。
「つまり、俺のプレーが下手くそだって笑ってるわけ?」
相手のトーンが少し危険なものに変わったのを聞いて、奏は慌てて首を横に振った。
だが柊斗は手を離さなかった。彼はつまむだけでなく、少しイタズラっぽく、親指と人差し指の腹でその頬を軽く揉みしだき、奏が無理やり顔を正面に戻すように仕向けた。
「さっきこのソファで、自分から悪いって認めたよな」
柊斗は彼を見下ろし、つまみ上げられてほんのり赤くなった柏木奏の頬に視線を落とすと、口角を吊り上げた。
「なら、悪いことをしたんだから、罰を受けないとな」
「罰?!」
奏の目はカッと見開き、頭の中はハテナマークとサイレンでいっぱいになった。LANケーブルを引っこ抜く気か?ブレーカーを落とす?それともゲーム機没収?!
彼がその単語に対して具体的な被害予測を立てる間もなく、前触れもなく千野柊斗の顔が迫ってきた。
ただでさえ至近距離にあったその端正な顔立ちが、視界の中で急速に拡大する。
影が一瞬にして奏の顔全体を覆い尽くした。
「や、やめろっ!」
奏はパニックに陥って叫び声を上げた。脳はこの瞬間完全にフリーズし、意識よりも先に身体が反応した。彼は本能的に目をぎゅっと閉じ、極度の緊張のせいでまつ毛を激しく震わせた。
千野柊斗の息遣いが顔に吹きかかる。それは冷たいミントのボディソープと、少年特有の少し温かい体温が混ざり合ったような匂いだった。
その匂いは嵐のように激しいわけではないが、まるで緻密で音のない網のように柏木奏のすべての感覚をすっぽりと包み込み、周囲にある呼吸のための新鮮な空気を1ミリ残らず塞いでしまった。
彼の唇がどんどん近づいてくる。
10センチ、5センチ、3センチ……
二人の唇の隙間が、わずか1インチ(約2.5センチ)になったその時、すべての動きがピタリと止まった。
空気中には、エアコンの吹き出し口から聞こえる微かな駆動音と、奏の胸の中で暴走する太鼓のような心音だけが残された。
予想していた感触は、いつまで経っても降ってこなかった。
一秒、あるいは二秒が過ぎた。
奏は、頭上から極めて小さな鼻で笑う音を聞いた。
彼は恐る恐る、こっそりと片目を細く開けた。
視界には、依然としてあと1インチしかない危険な体勢を維持している柊斗の姿がある。
しかし今、少年のこわばっていたはずの唇は、この上なく意地悪な弧を描いて吊り上がっていた。キラキラと輝くその瞳からは、先ほどまでの陰鬱さや圧迫感などすっかり消え去り、代わりに目的を達した後の茶目っ気と愉悦の色が浮かんでいた。
「ばぁーか」
千野柊斗は語尾を間延びさせ、その声には隠しきれない笑みと嘲笑が混じっていた。
「キスなんか、するわけないだろ」
今この瞬間の柊斗は、まるで退屈を持て余した性格の悪い猫そのものだった。イタズラを終えた後、ゆっくりと爪を引っ込め、ふさふさの尻尾で獲物の頬を撫でるのだ。ただ、相手がパニックになり、脳がショートした滑稽な姿を鑑賞するためだけに。
奏はソファの上で呆然と横たわっていた。
彼の目はまん丸に見開かれ、先ほどの恐怖と今の怒りのせいで瞳孔が少し焦点が定まっていなかった。胸の中の鼓動はまだ正常なリズムに戻っていなかったが、彼の理性の回線は再接続され始めていた。
弄ばれた。
この性格のひん曲がった未成年のガキに、頭の先からつま先まで完全にオモチャとして弄ばれたのだ。
ぽかんとしている奏の姿を見て、柊斗はどうやらようやく満足したようだった。
彼はゆっくりと上体を起こし、ソファのクッションから腕を離した。その動きに伴い、腰から腹部にかけての両脇の筋肉のラインが滑らかで自然な引き締まりを見せる。彼はまだ水が滴る髪をファサッと振った。まるで先ほどの息が詰まるような対峙など、ただのありふれたイタズラに過ぎなかったかのように。
「罰として、俺のマッサージでもしてもらおうか」
柊斗はそう適当に言い捨てた。まるで出前でも頼むかのような軽い口調だった。
「は?」
奏はまだ本革ソファに横たわったまま、頭の中に漂う先ほどのミントの香りが抜けきらない状態の中で、そのあまりにも飛躍した指示をぶつけられ、全く状況を飲み込めていなかった。




