57 限定特典CG(上)
エアコンの冷たい風が、太陽に焼かれて火照った肌を撫でる。
ローテーブルの上には、冷蔵庫から出したばかりのコーラが置かれている。アルミ缶の表面には、すでにびっしりと水滴が結露していた。
「カシャッ――プシュッ!」
プルタブを引き起こす小気味よい音が、静かなリビングにやけに響き渡る。
柏木奏は頭を仰け反らせ、キンキンに冷えた炭酸飲料を喉に流し込んだ。きめ細かく甘い炭酸の泡が口の中でシュワシュワとはじけ、胃の底まで一気に冷えていく。
彼はクッションの山に放り投げてあったゲームのコントローラーを拾い上げ、電源ボタンを押した。テレビの画面が二度点滅し、お馴染みの起動音と派手なエフェクトが流れる。そこでようやく長く息を吐き出し、魂がこの肉体に戻ってきたような気がした。
生き返った。
しかし、画面上では激しいバトルが繰り広げられているというのに、奏の思考はいつものように完全に仮想世界に没頭してはいなかった。
彼の視線は少し焦点を失い、ぼんやりとゲーム画面を見つめていたが、耳は無意識のうちにバスルームから聞こえてくる物音を拾っていた。
すりガラスのドアの向こうから、微かに水音が聞こえてくる。シャワーから噴き出すお湯がタイルを打ち据え、絶え間なくザーザーと音を立てていた。
テニスコートから帰ってくる道中、千野柊斗は彼に一言も口を利かなかった。
奏のコントローラーを握る親指が、無意識にアナログスティックを擦る。
あいつは怒っている。
それは疑いようのない事実だ。だが、奏には相手の怒りのトリガーが具体的にどこにあったのか、どうにも整理がつかなかった。
ついお節介を焼いて、あの天然パーマの日向駆とかいう奴に「攻略ガイド」を提供してしまったせいで、堂々たるテニスの暴君が勝ち抜き戦で誇り高き1ポイントを失ったからか?
それとも、日よけテントの下のベンチで爆睡してしまい、目を覚まして彼の練習を見学しなかったからか?
この二つの選択肢が、柏木奏の脳内でぐるぐると回っていた。
ベテランゲーマーとして、彼はキャラクターの裏にある好感度パラメーターを推測することに慣れている。
しかし、千野柊斗というセオリー通りに動かない変異種レベルのボスを前にしては、これまで蓄積してきた好感度選択肢の法則が全く役に立たないことに気づかされた。
「ゴォーッ――」
テレビ画面では、巨大なドラゴンのようなボスが大きく口を開け、広範囲に扇状の炎を吐き出していた。
頭の中がごちゃごちゃした考えでいっぱいになっているにもかかわらず、柏木奏の指は依然として恐ろしいほどのマッスルメモリー(筋肉の記憶)を保っていた。
彼の視線はボスの予備動作にすら完全に焦点が合っていなかったが、親指はすでに流れるようにスティックを倒し、ショルダーボタンのローリング指令と合わせて、画面内のキャラクターを信じられないほど滑らかな無敵フレームで、炎の縁をかすめるように見事に回避させていた。
立て続けに、強攻撃、チャージ、パリィ。
目にも留まらぬ鮮やかなコンボと、画面に絶え間なく弾け飛ぶ赤いダメージ数値とともに、体力ゲージの分厚いボスは凄まじい断末魔を上げ、その巨大な体は無数の光の粒となって空中に消え去った。画面の中央に金色のクリアリザルトがポップアップする。
ちょうどその時、バスルームの水音が前触れもなく止んだ。
排水口からかすかにコポコポという音が聞こえる。奏の指がピタリと止まり、ゲーム画面をポーズメニューに切り替えた。
少しして、バスルームのすりガラスのドアが押し開けられた。
ドアの隙間から、冷房の効いたリビングへと温かく白い湯気が流れ込み、清涼感のあるミントのボディソープの香りを運んできた。柊斗がその白い霧の中から姿を現した。
彼はゆったりとしたライトグレーのコットン製スウェットパンツを一本穿いているだけで、ウエストは少し無造作に緩められており、色白の上半身はむき出しだった。
暖色系の照明が降り注ぎ、肌についた水滴を微かに照らし出す。それは若きスポーツ少年特有の肉体であり、細身でありながらも力強さに満ちていた。
まだ落ち着かない呼吸に合わせて胸が微かに上下し、水滴が鎖骨の窪みを伝い落ち、うねるような光の筋を残しながら、グレーのパンツの縁へと音もなく吸い込まれていく。
これは、視覚的なインパクトに満ちた光景だった。
千野の淡い金色の髪は完全に水に濡れて、額の隅や耳の後ろにぺったりと張り付き、毛先からはまだ水が滴り落ちていた。彼は片手に白い乾いたタオルを持ち、無造作に頭にのせると、濡れた髪を乱暴に拭いていた。
「髪洗ったのに乾かさないで、そんな温度の冷房の部屋にいたら風邪ひくぞ」
奏はソファのクッションに寄りかかり、その無表情な顔を見ながら、こんな日常的な気遣いの言葉で相手のヘイト値(敵意)を探ろうと試みた。
柊斗は彼を見ようともせず、髪を拭く手も止めなかった。まるで目の前にいるのがただの透明な空気であるかのように、足取りを全く緩めることなく、リビングの中央にあるカシミヤのラグを真っ直ぐに通り抜けた。
なんだよこれ。完全スルーかよ。
柏木奏は心の中でため息をついた。
その時、テレビ台のそばで寝そべりながら前足を舐めていたゴールデンチンチラのぽっちゃり猫ルルが、物音を聞きつけた。顔を洗う動作を止め、エメラルドのような大きな目で不思議そうに上をぐるりと見渡した。
柊斗はキャビネットの前に歩み寄ると、身をかがめた。その動きに合わせて、背中の肩甲骨が美しい弧を描いて広がる。彼は両手を伸ばし、その毛玉のようなオレンジ色の肉の塊を抱き上げた。
ルルは習慣的に二、三度もがいたが、すぐに力強く安定した手つきで抱えられた。
柊斗は猫を抱いたまま、リビングの反対側にあるソファに座った。両脚を揃え、ルルを太ももの上に乗せると、片手はタオルで髪を押さえたまま、もう片方の手を猫の首の後ろに置き、その柔らかな金色の毛並みに沿って上から下へと撫で始めた。
彼の動きは優しく、力加減も絶妙で、猫の毛の間に指を差し込み、背中から尻尾の付け根までスッと撫で下ろす。元々はツンデレを貫いていたルルだったが、数回続けて撫でられると、あっさりと寝返った。
柊斗の脚の上で四つ足を天に向け、全く無防備な心地よさそうな姿勢に変わり、丸々としたお腹を惜しげもなくさらけ出して、喉の奥からすぐに低く満足げな「ゴロゴロ」という喉鳴らしを響かせ始めた。
奏はコントローラーを抱きかかえたまま、その光景を黙って見つめていた。
冷房がゴーゴーと吹き出している。広々としたリビングで、風呂上がりで髪を少し濡らした金髪の美少年が、伏し目がちに、ゴロゴロと大音量で喉を鳴らす毛玉のようなぽっちゃり猫を優しく撫でている。
コートで見せていた冷酷で狂暴な空気が抜け落ちた彼の横顔に、暖色系の照明が当たる。鼻筋のラインは高く、半ば伏せられた目元は彫りが深く、普段はいつも少しへの字に曲がり、嘲笑するような色を帯びている口角さえも、今はひどく穏やかに見えた。
この光景は、まるで超重課金仕様の乙女ゲームで、この攻略困難なキャラクターをクリアし、課金額がカンストし、すべての隠しルートを制覇した後になって、ようやくシステムが慈悲深くも送ってくれる限定特典CGのようだった。




